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4.【韓国】 韓国の「非正規労働者保護関連法」の内容とその効果

呉 学殊
労働政策研究・研修機構 主任研究員

韓国では、1997年経済危機後、解雇規制の緩和、派遣法の導入など労働市場の柔軟化政策が行われた。その後、非正規労働者の増加、所得の格差が進み、それが社会問題となった。特に、非正規労働者問題は、何人かの非正規労働者が自殺をすることもあって、世論の注目を集めて最大の労働問題に化した。その問題を解決するために、非正規労働者保護関連法が2006年成立し翌年施行された。ここでは、その内容と効果を簡単に紹介したい。

1.非正規労働者保護関連法の成立と非正規労働者の推移
韓国政府は、最近、非正規労働問題の解決に取り組んできたが、その象徴的なのは2006年11月30日に成立し、2007年7月1日から施行された非正規労働者保護関連法である。非正規労働者の濫用是正・防止と格差の是正がその狙いであった。同法は、「期間制および短時間労働者保護等に関する法律」(制定法)、「派遣労働者保護等に関する法律」(改正法)、そして「労働委員会法」(改正法)を指している。

韓国では、非正規労働者の割合を表すものとして2つある。臨時労働者と日雇労働者を合わせたもの旧分類(「臨時+日雇」)と、雇用契約期間の定めの有無と労働時間、賃金支給元別等による新分類がある。全雇用労働者に占める非正規労働者の割合は、旧分類では2000年、新分類では2003年にピークに達し、その後、減少傾向にある(下図参照)。

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出典:統計庁
『経済活動人口調査』、『経済活動人口調査付加調査』各年度
注 :韓国の非正規労働者割合は次のように2つの分類からみることができる。


1.旧分類(「臨時+日雇」基準)):この分類は、従来から行われているもので、雇用形態を常用、臨時、日雇と3つに分け、そのうち、臨時と日雇を合わせたものである。ちなみに、1)常用労働者:期限の定めのない雇用契約か雇用契約が1年以上の者、2)臨時労働者:雇用契約期間が1 ヶ月以上1年未満の者、3)日雇労働者:雇用契約期間が1ヶ月未満の者であるが、4)雇用期間が定められていない場合、退職金・賞与が支給されかつ会社の人事規定により採用される場合のみ常用労働者とみなされている。

2.新分類:
この分類は、2001年からの経済活動人口調査付加調査を使用したもので、次の期間制労働者+時間制労働者+非典型労働者の合計である。ちなみに、1)限時的労働者または期間制労働者:雇用契約期間を定めている労働者及び雇用契約期間は設けられていないが、非自発的・非経済的事由により継続勤務を期待することができない労働者。いわゆる契約社員である。2)時間制(短時間)労働者:労働時間が週36時間未満の者。いわゆるパートタイマーである。3)非典型労働者:派遣、下請、特殊雇用、在宅労働者。


2.同法の主要内容
主たる内容は、第1に、使用者は、2年を越えて期間制(契約)労働者を使用することはできない。もし2年を超えて使用するのであれば、その労働者と期間の定めのない労働契約を締結したとみなす。(注2)

第2に、パートタイム労働者(注3)に所定労働時間以上(最大1週12時間)働かせるためには本人の同意が必要である。それの拒否を理由に不利益取扱いをすることができない。違反の場合、2年以下の懲役または約100万円(注4) 以下の罰金。そのほか、期間制やパートタイム労働者との労働契約締結の際には、使用者は、当該労働者に賃金、労働時間、休日・休暇等の労働条件を書面で明示しなければならない。違反の場合は、50万円の過怠料が賦課される。

第3に、2年を超えて派遣労働者を雇い続けた場合、当該労働者を直接雇用しなければならない。5 その際、労働条件は同種・類似業務労働者と同水準、類似労働者がいない場合、派遣の時より下回ってはならない。

第4に、契約労働者、パートタイム労働者、そして派遣労働者の従事している業務に新たな採用をする時には、彼らを優先的に雇用することが努力義務とされた。

第5に、上記の非正規労働者が当該事業所で同種・類似業務に従事している通常労働者に比べて差別的処遇(注6)を受けた場合、その是正を労働委員会に申請することができる。(注7) 立証責任は使用者側にある。労働委員会の是正命令(注8)を受けた使用者は、命令に不服の場合、10日以内に中央労働委員会に再審を申請することができるが、不服しないでその命令を正当な理由なく履行しない場合、1千万円以下の過怠料を賦課される。

第6に、労働委員会は、差別是正の申請を受け付けた日から60日以内に調停・仲裁などの決定をしなければならない。

同関連法は、適用対象企業は従業員規模5人以上となっているが、差別是正にかかわる規定は、2007年7月から300人以上と公的部門、2008年7月から100人以上、2009年7月から5人以上に段階的に拡大される。また、非正規労働者の正規化も法律施行の2年後に適用される。そのため、関連法の労働市場などへの影響はこれから何年間にかけて次第に現われるとみられる。

従来、企業は、主に人件費の節約と容易な雇用調整のために非正規労働者を多く雇用してきたが、今回の保護関連法の導入により、非正規労働者の増加や濫用が阻止されると期待されている。(注9)その理由としては、派遣労働者の直接雇用義務、契約社員やパートタイマーの期間の定めのない雇用規定で安易な雇用調整ができないこと、差別是正が導入されているので、非正規労働者の主たる雇用理由である人件費節約のメリットがなくなることが挙げられる。期間の定めのない雇用規定を回避するために2年を満たないうちに解雇する可能性もありうる(注10)が、その間、当該労働者の職業能力が高まったと、新規採用や訓練等にかかる費用を考えると、その可能性が低いとみられる。

3.法施行の効果
韓国の雇用労働部(日本の旧労働省に当たる)は、法律施行から2年を迎えて11,000事業所を対象に法律への対応を調査した。その結果、正社員転換(36.8%)、契約終了(37.0%)、対応なし、すなわち自動的に期間の定めのない雇用への転換(26.1%)であった。正社員転換と対応なしを合わせると、62.9%に上り、非正規労働者の雇用安定が図られた。

こうした非正規労働者の雇用安定が同労働者の能力向上やそれに見合う処遇改善、生産性向上を伴い、当該労働者や企業にもプラスの効果をもたらしていくことにつながれば、法施行の一層の効果を期待できる。


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(注)
1 本稿は、呉学殊(2009)「韓国労働政策の動向と非正規労働者」、社会政策学会編『社会政策』2009年第1巻第3号の一部を若干修正・加筆したものである。具体的な内容については、上掲の論文をご参照いただきたい。

2 この規定にはパートタイマーも適用される。例外は次の6つである。第1に、事業の完了または特定の業務の完成に必要な期間を定めた場合。第2に、休職・派遣等により欠員が生じ当該労働者が職場に復帰するまでその業務を行う必要がある場合。第3に、労働者が教育や職業訓練等の履修のために必要な期間が決められている場合。第4に、55歳以上の高齢者と労働契約を締結する場合。第5に、専門知識・技術の活用が必要か政府の福祉政策・失業対策等による雇用で大統領令が定める場合。そして第6に、そのほか、以上に準じる合理的な事由があって大統領令が定める場合である。

3 パートタイム労働者とは、1週間の所定労働時間が当該事業所の同種業務に従事している通常労働者より短い者をいう。

4 読みやすくするために、韓国貨幣ウォンを使わずに、すべて日本円で表記した。日韓為替レートを10ウォンに約1円と換算した。2010年8月26日現在、正確なレートは韓国100ウォンに7.15円である。

5 派遣労働者の派遣先直接雇用義務は4つのケースがある。第1に、派遣が認められている32業種で2年を超えて使うとき。第2に、32業種の以外に、出産、疾病、負傷等の事由があればその事由が解消するまでに、また、一時的・間歇的に必要な場合は3か月間(1回更新あり)の派遣が認められるが、このような規定を違反して2年以上派遣労働者を使うとき。第3に、無許可派遣会社から送られた派遣労働者を2年以上使うとき。そして第4に、建設、港湾、鉄道、医療等の10の派遣絶対禁止業務で派遣労働者を使うことが発覚されるとすぐその労働者を直接雇用しなければならない。直接雇用をしない場合、300万円の過怠料が科せられる。派遣法の遵守を徹底化するために、派遣対象、派遣期間および無許可派遣の違反に派遣先の罰則を従来1年以下の懲役または100万円以下の罰金から派遣元も同様に3年以下の懲役または200万円以下の罰金に強化した。なお、派遣労働者の直接雇用は、期間の定めのあるかないかは問わない。

6 差別的処遇とは、賃金そのほかの労働条件等において、合理的な理由なく不利に取り扱うことをいう。

7 申請を理由に不利益取り扱いをしてはならない。違反の場合、2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。

8 是正命令は、差別行為の中止、労働条件の改善、適切な金銭補償等多様な内容となりうる。差別是正を図るために労働委員会に公益委員のみによる差別是正委員会が設置されている。労働委員会には、調整委員会、審判委員会、差別是正委員会があるが、公益委員はそれぞれの委員会ごとに委嘱されている。経済危機後、韓国の労働委員会については、呉学殊(2000)「韓国の労働事情について─労働委員会の事件処理を含めて─」労委協会『中央労働時報』第975号を参照されたい。

9 労働部(2006)『非正規職保護法律解説』。

10 しかし、2年以内であっても結ばれている契約期間中は正当な理由がなければ解雇できない。不当解雇と考える労働者は、労働委員会に救済申請をすることができる。韓国では1989年よりこの不当解雇救済制度が導入されている。処理結果をみると、おおむね取下げ、棄却、全部認定の順で多い。


                      『Int'lecowk―国際経済労働研究』 2010年10月号(通巻1004号)掲載 


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