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Int'lecowk 2025年11/12月号(通巻1155号)特集概要

福祉サービスにおける評価制度の意義と課題

Contents
福祉サービスの評価システム
埋橋 孝文(同志社大学名誉教授・大阪公立大学客員教授)

福祉サービスの質の向上において第三者評価事業がなぜ役割を果たせないのか
田中 聡子(県立広島大学保健福祉学部 教授)

福祉サービスの第三者評価は利用者・事業者にとってどのような意味があるのか
居神 浩(神戸国際大学経済学部 教授)

福祉政策における評価システムの課題と展望
― イギリスの政策評価に学ぶ日本への示唆―
遠藤 希和子(金城学院大学人間科学部 講師)

  

 本誌11/12 月号では、埋橋孝文氏(本号では特集1を執筆いただいている)の協力を得て、例年、福祉関連の特集を企画している。直近では、「福祉サービスのマクロ/メゾ/ミクロ分析」(2023 年11/12 月号、通巻1135 号)、「福祉サービスの質と第三者評価-高齢、児童、障害の3分野を中心に」(2024 年11/12 月号、通巻1145 号)を特集として掲載した。

 本号の特集テーマは「福祉サービスにおける評価制度の意義と課題」であり、これに関連する部分を中心に過去の特集を振り返っておきたい。2023 年の特集では、石田慎二氏(帝塚山大学教育学部こども教育学科教授)の論稿において「介護サービスの質の評価をめぐる政策の課題」、孫琳氏(同志社大学大学院社会福祉学専攻博士後期課程、大阪公立大学都市科学・防災研究センター 客員研究員)の論稿において「福祉サービス供給主体間における『サービスの質』の相違に関する研究―訪問介護事業の実態分析を通して―」がある。2024 年の特集では、サービスの質について、現場ではどのように捉えられており、また、質を担保するために設けられている内部評価や外部評価(第三者評価)※注 がどのように受け止められているのかを検討している。

 本号は、このような流れもふまえ、福祉サービスの評価についてより深く検討を加えるべく企画されたものである。特集1 は、埋橋孝文氏(同志社大学名誉教授・大阪公立大学客員教授)より、「福祉サービスの評価システム」と題してご執筆いただいた。サービス評価システムの国際的な比較をおこない、日本のサービス評価システムの特徴を描いている。特集2は、田中聡子氏(県立広島大学保健福祉学部 教授)による「福祉サービスの質の向上において第三者評価事業がなぜ役割を果たせないのか」である。東京都、京都府のヒアリング調査をもとに、第三者評価事業の当初の目的がなぜ達成されていないのか、質の向上に寄与するための改善点は何であるかを考察している。特集3 は、居神浩氏(神戸国際大学経済学部 教授)による「福祉サービスの第三者評価は利用者・事業者にとってどのような意味があるのか」である。福祉サービスの第三者評価が、利用者、事業者にとってどのような意味があるのかを、インターネットに掲載されている情報をもとに考察している。特集4は、遠藤希和子氏(金城学院大学人間科学部 講師)による「福祉政策における評価システムの課題と展望―イギリスの政策評価に学ぶ日本への示唆―」である。政策評価(とくに社会福祉政策や福祉サービス)は、利用者の生活の質や権利保障を評価する枠組みが求められる一方、評価が効率化やコスト削減に偏ってしまうと、現場の柔軟性が損なわれサービスの質をかえって低下させる可能性があるという表裏一体の関係にある。本稿では新自由主義的な福祉国家体制をすすめてきたイギリスの歴史的展開をたどり、その変遷と課題を明らかにすることで、日本の福祉政策における評価システムのありかたについて考察している。

※注
 2000 年から介護保険制度が施行されたことにより、サービスの供給に占める民間営利法人事業者や非営利法人事
業所の割合が増加し、2001 年から「福祉サービス第三者評価事業」が始まった。この事業は、①利用者の適切なサービス選択に資するための情報となること、②福祉サービス事業者が事業運営における具体的な問題点を把握し、福祉サービスの質向上に結び付けることの2点を目的とするものである。2001 年以前からも行政による査察事業があったが、それは最低基準のみを定めたものであり、第三者評価はそれを上回る質のサービス供給をめざすものである。

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