(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦
イスラエルを批判するパレスチナ人活動家のリーダーが、今年の3月8日、「米連邦移民・関税執行局」(ICE)によって拘束された。
リーダーが拘束された翌日の9日、トランプ大統領は、SNSへの投稿でこのリーダーを「過激な親ハマスの外国人学生」と呼んだうえで、「全米の大学には、親テロリスト、反ユダヤ主義、それに反米活動を行った学生たちが多数いる。トランプ政権はこのことを容認しない」と強い調子で言い切った。
しかし、このリーダーは、パレスチナからの入移民ではあるが、米国の永住権と学生ビザを持っている。この人を、トランプ大統領は「親ハマス」と決めつけ、こともあろうに「外国人学生」という言葉を使ったのである。
「マルコ・ルビオ」(Marco Rubio) 国務長官も、同じ日の9日、SNSに「ハマスの支持者が持つ査証・永住権を剥奪し、国外追放する」と投稿した。1952年に制定された「移民国籍法」を使用する方向で政府は動いている。
リーダーの出身であるコロンビア大学への政府補助金も止められた。
現在、イデオロギーにおいて与野党の差異は小さくなった。違いは、共に抱く「国家主義」への執着の強さだけになってしまった。
100年近い前に視点を移す。
児童労働の禁止や婦人参政権の拡大などを目指す進歩派と目されていた民主党の「アレキサンダー・パーマー」(Alexander Palmer)が、「トーマス・ウィルソン」(ThomasWilson) 大統領によって1919年に「司法長官」に任命されて早々、この年に施行されるようになった「入移民法」を拡大解釈して、「第一次赤狩り」(first Red Scare)を指揮して、外国出身の反政府分子たちを国外追放し、さらに、ナチスへの恐怖から、酒造業の多くがドイツ人経営であることを根拠に、悪名高い「禁酒法」(ProhibitionLaw)の成立に貢献した。
当時の与野党の議会論点は「高い関税」であったが、好ましくない外国出身の社会改革運動家の海外追放については、国民的論議にはならなかった。
私たちは、現在の報復関税論議のみに終始していてはならないのである。
2025.4