(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明
2025年1月、ドナルド・トランプ氏が再び米国大統領として返り咲き、「トランプ2.0」が始動した。この復活劇は、米国国内の政治的潮流の変化と国際社会に大きな波紋を広げることになる。連日、「やりたい放題」のニュースが続く。
トランプ氏の再選は、米国の分断がさらに深まったことを象徴している。近年、インフレや移民問題、治安の悪化などに対する不満が増大し、現政権の対応に失望した有権者が彼に再び期待を寄せた。特に、中西部のブルーワーカー層や保守派の支持を盤石にし、「アメリカ第一主義」を再び掲げたことが勝因となった。
また、SNSの普及によりソーシャルメディアや右翼系メディアの影響力が強まり、従来のマスメディアを介さずに直接有権者へアピールする手法が一般化した。これにより、トランプ氏の言動が煽情的なメッセージとして直接有権者に届き拡散しやすくなり、既存のエリート政治に対する反発が追い風となった。
近年、欧米ではポピュリズム的な動きが活発化している。その背景の一つは、経済的不平等の拡大だ。移民の増加により、特に欧米では労働市場や社会保障に対する圧力が高まり、文化的対立が生じている。グローバル化の進展により、一部のエリート層が富を独占する一方で、中間層や低所得層の状況は悪化している。これが伝統的な政党や政治家に対する不信や不満を生み、エリート主導の政治に対する反発が広がり、ポピュリズム勢力の台頭を後押ししている。
トランプ2.0の誕生により、世界は再び不確実性に満ちた時代に突入する。トランプ氏は1期目同様、中国に対する強硬姿勢を貫くだろう。関税政策の復活やサプライチェーンの脱中国化を推進する可能性が高い。これにより米中間の経済対立はさらに激化し、世界経済に混乱をもたらしかねない。また、ウクライナ戦争や中東危機においても、想像できないような対応に打って出ることも否定できない。
日本にとっても大きな影響を覚悟しなければならない。日米同盟の価値を再確認し、米国にとって「日本が不可欠なパートナーである」ことを理解させるとともに、米国だけでなく、オーストラリアやインドなどとの安全保障協力を強化し、多国間の枠組みを構築することだ。
トランプ氏は「TPP離脱」を決定したように、自由貿易に消極的な姿勢をとる傾向にある。日本製品への関税強化や米国市場での規制強化の可能性も高い。米国との2国間貿易交渉で有利な条件を引き出せるよう戦略的な交渉を行い、欧州やASEAN(東南アジア諸国連合)との経済連携を強化し、米国だけに依存し過ぎない経済体制を構築することも重要だ。
中国・台湾問題への影響も大きな課題だ。日本は米中対立の影響を直接受ける可能性が高く、台湾問題が緊迫すれば、日本の安全保障にも関わる重大な課題となる。中国との関係を慎重に管理しつつ、米国の対中戦略に巻き込まれすぎないバランスをとり、台湾有事を想定した安全保障政策の整備を進める必要がある。日本にとってトランプ2.0は、民主主義を共有する各国や存在感が増してきている新興・途上国との連携を深め、国連やG20といった枠組みを使い、公正な自由貿易体制の下で多国間協力を進める契機ともなる。気候変動対策や軍備管理など、グローバル問題の規範作りにも率先して取り組む必要がある。
また、経済格差の是正のためには、再分配機能の強化により、富の偏在を抑え中間層を強化する政策が必要だ。デジタルメディアの健全化も求められる。フェイクニュースや偏向報道が社会の分断を助長している。情報の透明性を高める取り組みが不可欠だ。
日本はトランプ政権の今後4年間をどう凌ぐのかという守りの姿勢ではなく、より自立した国家戦略を描く機会としなければならない。国際社会の未来を描き、トランプ政権の一国主義で揺らぐ国際協調の立て直しに向けて、率先した役割の発揮が求められる。
2025.4