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【2003年7月号】SARS―中国政治・経済へのリアクション

WHO(世界保健機構)は6月13日現在で、SARS(重症急性呼吸器症候群)による渡航延期勧告地域を中国の北京と台湾に限定するに至ったが、12日に は、「中国の沈静化努力を評価した上で感染経路の究明不足に深い懸念を表明。感染者を早期発見するための監視体制の欠如、WHOへの情報提供の遅れ、地域 によって診断基準のばらつきがあり、患者を見逃していることを列挙し」「最大感染地の北京で感染源を特定できない患者がこれまでの5割から7割超に悪化し ており、警戒態勢の継続をよびかけ」「いまの監視体制では流行が再発した場合に対処できるかどうか疑わしい」(日経新聞6月13日朝刊)と報告したと伝え られる。中国の対応が甘く、相当数の感染者を見逃しているとして、WHO・ヘイマン感染症対策部長が現地調査に入った結果である。一旦、「制圧」宣言した カナダのトロントでの再度の「感染地域」指定にみるように、未だ感染源や治療方法が明確でない段階で、「震源地」中国への不安は依然として拭えない(世界 33カ国・感染者7,447人・死者552人)。

SARSの発生と伝搬は、世界を震撼させた。まさしく、現代中国の巨大都市・北京は、かつての西欧社会を揺るがしたペスト禍のようにゴーストタウンと化 した。工場も映画館もスーパーも街路も人っ子1人居なくなった。政府の必死の強制隔離の結果、民衆は怒号と混乱に陥った。3月頃、香港・華南で顕在化した この症状は、瞬く間にシンガポール・ヴェトナム・カナダなど華僑多重地域に拡大し、その後、北京を中心に華北に拡がった。日系企業も大半の駐在員・家族を 帰国させ、日本政府は学生その他長期滞在者の早期帰国を促進した。ようやく香港・華南などで事業再開に至ったが、未だ不安は去らない。

次第に事実が明らかとなり、すでに昨年11月頃に、中国では早期患者が確認されているが、党と政府はひた隠しにし、北京での顕在化の情報は遅れ、WHO が調査に乗り出した時点でようやく少数の発症が明らかとなった。しかし、それも民間病院の患者数のみで、軍関係の大量の発生は隠蔽された。その後、対応の 遅れを問われ、衛生大臣と北京市長が解任になった後、軍の実態が明らかにされた。衛生大臣は江沢民の主治医であり、情報統制と軍事委員会主任・江沢民との 関係が疑われるが、中国の党と官僚の体質による権力的情報統制と、その結果としての対策の遅れは明らかで、国際的非難と中国経済の厳しい影響を考慮して、 胡錦濤・温家宝新政権体制が徹底対策に踏み切ったものと見られ、いわば新政権体制と旧政権体制との激烈な内部抗争の結果と推測される。しかも、事実を公表 する際、感染者・死者数の一挙公開はショックが大きいので、小出しに発表することなどの作為も行われたといわれる。感染者・死者が毎日少数ずつ発表された 可能性があり、このことが前述のWHOによる不信報告と重なる。診療施設の少ない地方農村地域では、沿岸地域からの帰郷・入境者排除のため入村道路にバリ ケードを築く事態がTVで紹介されている。病原は、ハクビシン(ジャコウネコの一種)などの動物の保菌で、生食が原因といわれたり、中国国内では軍の感染 が多いことから、軍の炭素菌製造過程の失敗からの漏出という観測も流布されている。

SARSの発生は偶然としても、広範に伝搬したことは明らかに人災である。すでに、中国の今年の経済成長率の大幅低下が予測され、市場経済の発展に比較 しての民主化・情報公開の遅れなど政治体制未成熟への国民の批判の高まりは避けられず、新政権体制にとって、これら政治体制の解決が必至となったといって 過言でない。(伴)


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