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【2019年11/12月号】何処に向かうか欧州――西洋価値観と欧州統合の危機

第二次大戦後の欧州には政治の底流として、人権の尊重などを重んじる「西洋的価値観」-理想主義があった。偏狭なナショナリズムを抑制し、焦土から積み上げた欧州統合を貫いてきた20世紀後半以来今日までの歴史の上で、大量の移民・難民問題の生成という新たな流れの中でナショナリズムが頭をもたげ、排外主義を唱える極右政党が勢いを持つという新たなクライシスに直面し、民主主義や多文化主義の是非を問う事態に転化してきた結果、欧州統合を守れるかどうか、の危機に直面することとなった。かくて2019年には欧州議会選挙があり欧州中央銀行(ECB)総裁選挙などの重要日程が詰まっている中で、欧州の将来を左右する年となる。17年から18年にかけて行われた3つの選挙が欧州の行方を判断する材料となりうるだろう。  

1つは17年9月のドイツ総選挙である。その結果は、前回13年の選挙で泡沫政党に過ぎなかった極右「ドイツのための選択肢」が13%という得票率で主要政党の一翼に加わり、初めて国政に進出したことである。2つには翌10月にはオーストリア議会選で、12年ぶりに極右「自由党」が連立与党入りし、さらに18年3月にはイタリア議会選で左派ポピュリスト「5つ星運動」と極右「同盟」が躍進して左右両極による連立政権が発足したのである。  

第2次大戦で枢軸国であった3カ国で移民排斥を主張する極右政党が浮上することは、戦後かつてのナチスあるいはファシズムの反省から国粋主義に反対してきた風向きが変わったことを意味する。  

永年、ドイツを率いて欧州全体をリードしてきたメルケル首相は15年夏には難民の受け入れを宣言し、1年間に100万の難民を北アフリカ・中東から1年間に100万を超える人々が欧州を目指した。  

しかし、北欧やオーストリアではリベラルな思想が強く、比較的問題はなかったが、デモクラシーの歴史の浅い中・東欧では拒絶反応が強い面があり、特に宗教面で異教徒特にムスリムへの拒絶反応の強い地域など、受け入れをめぐって大きく分裂する傾向があった。「西洋の価値観」を維持して異教徒を受け入れるのか、異教徒・他国民との異文化を受け入れられないか、まさしくその分裂は続いている。政治的には、これを許容する政党かさもなくば難民や多文化主義を拒絶するか、をめぐる対立は根強く社会分断が継続することとなる。 (会長 板東 慧)  
 


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