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【2015年4月号】中国―高度成長の終焉と利権摘発・粛清の徹底ー全人代をめぐって

中国の本年の全国人民代表大会が3月5日から開催された。習 近平・国家主席がトップになって3年、「トラ退治」のスローガンの下で、この1年間で「トラ(幹部)28人・ハエ(非幹部)5万5千人」を粛清し、その勢いは止まらないという状況下にある。これ自体江沢民時代から始まった高成長経済によってもたらされた政治経済の歪みに対する告発といえる。この弊害は中国社会のいたるところにもたらされ、都市社会と官僚社会中心にさまざまなシステム弊害をもたらした。その結果、中央・地方を問わず官僚・民間挙げて特権階層の形成と富の偏在による格差社会を生み出し、これに対する民衆の告発や不満が充満しているとみられ、習近平政権はそれに 対応した告発をすすめているとみられる。強い格差社会に対する庶民大衆の不満があふれ、利権・腐敗が摘発される度に庶民は喝采を送り、そのたびに習近平政権はわが意をえたり、と摘発と告発をすすめてきた。しかし、同時にこれらの対象には習主席と肩を並べて出世を競い、あるいはライバルでもあったもので、それが現在は敗者として排除される人々として連なっているといえる。正義としてこれを進める習政権はますます力を誇示しているが、一面背後 に強烈な幹部間の抗争を推察させる。

習政権は、重慶で毛沢東主義を掲げて黒社会の退治に乗り出した薄書記、中央軍事委の徐副委員長、司法のトップであり石油閥の中心の周など3人の党籍剥奪など処分したが、9月の4中総では反対意見もあってこれらを公的に処理できず、全人代に送られた。

中国共産党は昨年から「法の支配」を強調し、外資に対する 独占禁止法の適用と、内部的には不正・腐敗の撲滅を強調してきた。全人代はこれらを受けて、公的なシステムを確立すると同時に、最大の問題は、「高成長からの転換」として、経済成長を7%程度に抑制し、「量より質」の経済に転換することを目指すことと した。しかし、中国経済はすでに経済成長鈍化の段階に入っており、6%成長あるいはそれ以下に低下する可能性もある。それは経済統計が信頼されず、高成長体制の下ではコントロールのきかない野放しの成長が試みられたことなどの失敗があげられる。例えば 一昨年、鉄鋼金属産業は国有企業中心増産にドライブをかけ、世界需要の3倍以上の鉄鋼生産を進め、世界鉄鋼過剰を生み出し価格の大幅な低下をきたし、アルミやその他金属産業にもおいても 同様のことが起こった。また、すでに不動産市場も価格低下の段 階に陥り、全国的に赤字企業が増え、倒産件数も激増している。経済指標はすべての面で中国は成長から失速状況に突入している。この中には高成長を謳歌して、杜撰な統計による経済政策の失敗や経済システムの革新が遅れるなど体制的困難が基礎にある。「中国経済は何処まで落ちるのか」が世界のエコノミストの注目となっているが、中国国内は未だ高成長経済の夢を見続けている傾向があり、今回の全人代はこれに初めて「高成長時代の終焉」 を掲げて警告を発したといえる。
(会長・板東 慧)


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