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【2017年2月号】異例のスタートを切ったトランプ大統領とその今後

第45代大統領に就任したトランプは、選挙期間中から異 例の発言と行動が注目されたが、1月20日米国民の利益を 最優先する「米国第一主義」を宣言する中で、支持率40% 台という歴代最低の支持率で就任式を行った。軍歴も公職 歴もないニューヨーク出身で、ホテルやカジノを全米に展開 する「不動産王」で、共和党の指名争いで16人を退けて党 候補指名を獲得し、本選挙では大方の予想を覆して民主 党候補で前国務長官のクリントンに勝利した。この70歳とい う就任時最高齢の大統領の就任式にはわずか40万人の 列席者で、オバマ前大統領の就任式には180万人の支持 者が全米から駆け付けたのに比較して、あまりにお寒い状況 であったことは、全米を分裂させた大統領としてまさに異例 の人物といえる。

「再び偉大な米国を」という彼のスローガンはまさに異例の ものとは言えないし、貿易も雇用も米国第一に増加させ、大 胆な減税・規制緩和・インフラ投資を主要な政策とすること に異論はないはずであるが、オバマケアというヘルスケアや TPPからの離脱とメキシコ国境の高い壁の設置などによる 移民の排除など「オバマ以前からの米国政策の主流—ワシ ントン官僚の伝統政策の転換」という「米国の既成の政治か らの決別」という彼の主張には整合性がないといえよう。しか も、彼の主張からは伝統的な人権重視もなく、特に著しい女 性蔑視があるし、米国第一の中には、第二次大戦後の米国 の果たしてきた人権重視と安全保障における指導的役割 の喪失を危惧させる要素がある。もとよりロシアとの関係重 視や中国と台湾を巡る問題では新たな意欲を見せる可能 性がみられる。

 しかし、何よりもこれらの政策によって米国自身の分裂と いう修復しがたい様相の可能性をもたらし、アジアの安定に ついてはほとんど関心がみられない。

これらを総括すると、米国世論の分裂とアジアの不安定 の可能性が示唆され、英国のEU離脱を含むEUの弱体化 と欧州やその周辺地域における右翼政治勢力の台頭とあ いまって世界のナショナリズムに拍車をかける可能性もある。 特にわが国は、この米国の政策には貿易などの経済関係と 安全保障をめぐる課題で大いに関心をもってよりよい関係 の強化が必要とみられる。 (会長・板東 慧)


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