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【2005年11/12月号】指導の混迷か、冷却内省期か、EUのこの1年

1993 年に成立し、99年には単一通貨ユーロを流通させ、2004年には25カ国体制を確立して、ヨーロッパ統合の最終段階に向かうかに見えたEUは、突如その 勢いに陰りがさした。去る5月・6月に原加盟国フランス・オランダで、EU憲法条約の国民投票にストップがかかった。この結果、英・愛・デ・ポ・チェコ等 5国が投票を凍結して憲法発効延期となった。それに加えて、仏の農業補助金が有利過ぎると英が見直しを求めたのに対して仏が譲らず、英の分担拒否で、予算 交渉が決裂し、チェコなど新加盟国も大国の対立に驚いたという。

ところが、10月には、仏と並ぶリーダー独のシュレーダー首相が、そのヘゲモニーを維持するためにわざわざ前倒しした総選挙で敗北し、かろうじて相手の CDUが議席の過半数を獲得できなかったために大連立に持ち込めはしたが、シュレーダー自身は下野せざるを得なくなった。しかも、その背後には、独経済の 後退と改善されない失業率、特に旧東独地域の18%に上る失業率と旧東独での左翼の伸張があったし、新大連立も短命がうわさされる。

それに加えて、仏のマイノリティのテロ多発である。ついに先進国としては珍しい非常事態宣言となった。憲法国民投票の不成立に続くシラク大統領の陰りと ともに、非常事態宣言を発した首相は、米のイラク出動を強烈に非難したドビルバン(当時外相)であり、今度は反イスラムで強行に出た。当時シラクに従って 永年の同盟国米に反対したシュレーダーは政治的に退場した。当時、米に協力した英のブレアは一時困難に陥ったが見事国内で体制を挽回し、パキスタン人のロ ンドン・テロを拡大させることなく、封じ込めた。

EUは、今までの仏・独主導の単一強行化に陰りがでて、揺らぎが話題になっている。今、EU委員長はブレアで、もともと仏・独型強行に批判的であった。 マイノリティ対策についても、仏型の同化強行主義と英型の多様化ソフト主義の比較がEU内でも話題になっている。ここまで来たEUが簡単に崩れるものでは ない。しかし、25カ国に加えて、初めてのイスラムトルコの加盟が次に控えている。今は、多様化と統合の緩やかさを含む冷却と内省期間が必要かもしれな い。さもなくば混迷か。ここで委員長の役割があるのかもしない。(伴)


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