本サイトへ戻る
カテゴリー一覧

【2003年5/6月号】戦後遺産としての国際機関の危機―サダム政権解体をめぐる国際関係―

イラク戦 争が終わった。結果は予想通り3週間という早さで米英同盟軍の軍事的勝利に終わった。もとより、軍事的勝利とはいえ、治安や統治を含んで新政権の誕生に至 るにはさまざまな曲折が予想される。しかし、この事態をもって、米英の行動がうまくいかないことを期待するかのような評論や予想話をもて遊ぶ意見は、サダ ム政権の存続を期待することになり、その意図が疑われる。前号で指摘したように、確かに国連での手続きに不十分さがあるとしても、仏・独・露の駆引きは、 明らかに反戦の正義より権利や国益を背景にしたもので、フセインを勇気づけたに過ぎない。人権を残酷に抑圧してきた政権を延命させる理由はないのであっ て、真に民主化を望むのなら、仏・独などにはもっと積極的な対応がありえたはず。結果的に、サダム側の軍事的抵抗が収まるや仏・独・露はイラク復興への積 極的参加を提起し、国連の場に委ねる提案を強調している。もとより、国連は重要だが、フセインを倒した同盟軍への非難を保持したままでうまくいくはずがな い。背後に再び勝ち馬に乗って利権の一角に加わろうとする臭いがする。そこにはけじめが必要となる。国連は協議の場として重要だが、安保常任理の一国が拒 否権を発動すれば何も動けないことが明確な以上、そのような混迷が起こらない保証が必要である。

今回のイラクへの介入をめぐって、国連の安保理は大国の対立になすすべがなかった。かつて、55年体制の下で中ソが一貫して拒否権を発動するので、安保 理は国際紛争に対して永年機能しなかった。湾岸戦争でもコソボ紛争でも、多国籍軍での対応しかなかった。89年体制によって社会主義体制が崩壊し、ようや く安保理がどうやら50年ぶりに機能しはじめたが、今回は再び国連の安保理が機能しなくなった。その理由は、以前と異なって自由陣営の亀裂による国連の機 能喪失である。その最大の原因は、査察について明確な成果の保証も展望もなしにアメリカが飲めない長期引伸ばし案をフランスが強調して「いかなる案もすべ て拒否権を発動する」とまで言い切り、ドイツがそれに同調したことにある。そして解決困難になって「1週間案」を持ち出したが、すでに安保理は機能喪失に 陥っていた。しかも、EUでもNATOでも仏・独・ベルギー・ルクセンブルグ以外と、未加盟の中欧諸国すべてが仏・独横暴として反対した結果、EU・ NATOでも分裂が顕在化し、今後の運営が危ぶまれている。アメリカの一国主義への批判があるとしても、それは従来なら自由主義陣営間の協調体制の枠内の 問題とされてきたが、今回はそれを逸脱したために、戦後の成果の集積である国際機関の機能マヒを招いたといって過言ではない。その修復に格段の努力なしに は、イラクどころか今後の国際関係の不安は拭い切れないといえる。

この問題は、国連が先進国による国際統治という戦後処理システムから脱脚できていないこと一先進国クラブとしての安保常任理事国体制などに所以があり、 その権威が揺らぎ始めている。わが国にとっても、米に次ぐ第2の国連財政負担国であってもそれに見合う発言権はなく、国連中心主義外交が揺らぐ可能性もあ る。新たな機能強化が課題となるが、この問題は複雑なので、ここでは問題提起に止めておく。(伴)


地球儀 の他の最新記事