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【2003年4月号】 対イラク査察―時間さえかければ問題は解決するのか―

対イラク問題、この号が世に出る頃には、米・英の対イラク行動が決定されていると思われ、それがすめば内外の論調にも変化があり、世の中の常で過去のことはあまり問題にされなくなるので、この問題について今コメントしておく。

第1の問題点は、米・英が従来の経緯から全くサダムを信用せず、イラクに大量殺戮兵器の全面廃棄を強調し、本気で武力介入の準備をすすめていることである。

第2の問題点は、査察に関して、フセインは協力すると見せかけて不協力で、小出しに要求に答える形で時間稼ぎしている。査察委の報告は一貫して部分協力 は認めながら、初期の目的達成に至っていない。この問題は湾岸戦争処理でのフセインの確約の不履行で10年余、追及に対する回答としては不誠意極まりな く、国連も全くなめられ、査察委員長の報告もフセインの誠意については、繰り返しアイマイさを免れない。

第3に、従来協調関係にあった米・英・仏・独関係が2極分解し、武力行使強調の米・英に対して、言葉の上では武力行使も否定しないが、米・英の行動を引 き伸ばすためにロシアを引き込み、対米抑制に動き、世界世論が分断されるに至った。この仏・独の行動は、冷戦体制崩壊後のアメリカ一強体制=ユニラテラリ ズムに対してEUの主軸にある独・仏の不快感と抵抗の表現であり、それにロシアを巻込んだ。しかし、スペイン・イタリア等独・仏・ベルギーを除く大半の EU加盟国や中欧諸国は対米協調が強い。

第4の問題点は、以上のことは表面的なもので、実質は、仏は世界第2の産油国イラクに強い利権を持ち、ロシアは社会主義時代からフセインとの石油利権も 強く、両者共に単なる平和主義からの対米牽制でないことは明らかである。ドイツは大変な不況で、昨年の総選挙でシュレーダー政権は危機に陥り、初めて海外 武力介入に踏み切った湾岸戦争・ユーゴ介入への連立「緑の党」その他のシュレーダー政権批判が強く、選挙公約として「反戦」を強く掲げ、シュレーダー政権 としては仏との提携による反戦が政権基盤にかかわる。

これら各国の対米批判は、実は石油利権とのかかわりからフセインに恩を売ったり、より有利に利権に近づくための行動である。だから、かりに米・英が軍事 行動に入れば、仏などは直ちに軍事行動に強調するといわれる。ロシアはフセインの亡命を引受けてアメリカとの協調の可能性も強い。アメリカは軍事介入する なら砂嵐の3月半ばにはメドをつけたいとするものの、ポスト・フセイン体制の構築は必ずしも明確でない。

第5の問題点は、にもかかわらず、フセインが渋々ながらミサイルまでも廃棄の証拠を提出するにいたったのは米・英の武力による追い込みの結果であり、 仏・独のように米を牽制するだけではフセインはつけ上がるだけである。残虐無比な独裁者をこのまま放置してよいわけはない。仏・独・ロは査察を続けるとい うのならもっとフセインを追い込む努力に協力すべきである。「平和」は重要だが、フセインの免罪と延命に手を貸すことが果たして平和なのか、が問われる。 ここにみる事態は、冷戦体制崩壊後の新事態を象徴している。しかし、陰謀国家の戦争遂行に手を貸す「平和宣伝」は戒めるべきだ。(伴)


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