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【2020年4月号】EUの危機を招く難民・移民問題

ヨーロッパは今日、難民問題で難渋している。ヨーロッパとい うより直截にいえばEUの困難である。2015年9月8日に、中東からの難民が津波のように押し寄せてドイツ国内が騒然となった。この年にドイツに入った中東難民は100万とも150万ともいわれ、その後冷静になって確認すれば89万というのが実質的な数値であるというのだが、正確な数値は不明である。その頃は多くのドイツ人がようやく難民に手を差し伸べられるような余裕を持ったといってよい。もとより難民はそれ以前からあったわけで、長い間ドイツ人にとって気になる問題であったが、それを受け入れる一定の余裕ともいうべきものがこの頃にはようやく出来てきたともいえる。一般にヨーロッパにとって難 民は大きく分けて2方面からの者といえる。その1つはアフリカ難民であり、もうひとつは中東難民である。中東難民は、主にシリア内乱が始まった2011年頃から激しくなった。特にIS(イスラ ム国)やイスラム武装組織が活発になり、さらに難民が急増したのである。これら難民に対するシンパシーがヨーロッパ人の中に沸いたのは当然であるが、経済力を背景としてパワーを強めたドイツ国民を揺さぶり、時のメルケル首相を積極的にし、難民受け入れに動かした。そして、それがEU全体に及びEUの基本政策のようにみられて普及したのである。しかし、この結果としてのとめどない難民の受け入れがEU住民に不安をもたらし、この政策への不満に転嫁し、東欧諸国では反対意 識が高まり、イタリア・ギリシャで反感情が高まり、イギリスでは国民全体としてEU離脱に向かう結果となった。メルケル首相の大量難民招き入れは結果としてドイツのみならずEU全体を混乱に陥れたことになる。  

この難民問題は流入民と原住民との違和感をもたらすだけではなく、様々な社会的摩擦や対立を生む可能性がある。 まずは移民がその目的国あるいは目的地に到達するまでの間に経由する地域や国家を移動するわけで、そこでさまざま生活上の障害や困難が派生するし、その間にさまざまなブロー カーや斡旋人・仲介人とかかわる可能性があり、それを巡って派生する交渉や関係処理があり、トラブルの発生も起こりうるのでその処理にかかわる諸問題も派生しうる。このように複雑な社会関係が総合的な社会体制、さらにはEU体制そのものの摩擦を生み出す可能性がある。 (会長 板東 慧)

 


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