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【2010年9月号】党首選に踊って経済政策の積極化が見えない民主党・菅内閣

 円高が急速に進み、8月11日には15年ぶりに1ドル84円台に達した。菅首相も、休暇先から仙石官房長官に電話で「注目」発言を伝えて牽制したが、介入には至っていない。背景には、米国の景気後退予想が厳しい中で輸出振興を重視するオバマ政権の当面のドル安政策が強固なことがある。さらに、ギリシャ財政破綻を契機にしたユーロ安があり、EUの経済見通しが好転する条件にはないことがある。この米欧の財政・通貨への信頼性の低下から同じく財政赤字を抱えながらも、金融システムが相対的に信頼されている円が買われ、円高を招いているので、わが国一国でこれを是正する介入が困難なのである。

その一方で、ユーロ安からEUの輸出が伸び、特に最も強いドイツの輸出が大幅に伸び、米国もまたドル安が輸出を促進させる傾向にあるものの、他方、中国では不動産バブルと製造業の過剰設備に加えて雇用減退と元高問題などで輸出の減退傾向がある。もとより中国の成長力が衰えたわけではなく、わが国を抜いて世界第2のGDPへの到達は揺るぎないが、調整局面にある。わが国の場合、財政の累積赤字がGDPの1.9倍の900兆円に達し、依然としてデフレからの脱出が困難な状況で、中国への輸出の減退と共に米欧経済の減退にまきこまれれば2番底を迎えることは間違いなく、その意味で危機認識は現実性を持つ。

しかし、冷静な自己分析が重要であって、「ギリシャと同じようになる」とか「財政破たんが迫る」といった認識による縮み志向は正しくない。まず、わが国の財政赤字は1400兆円という国内金融資産に裏付けられた国債の発行によってファイナンスされており、PIIGS諸国のような外国からの借金によるものではない。しかもわが国には600兆円を上回る国有財産があり、その売却による補填が可能であり、さらに多額の米国債を保有している。これらを明示しないで累積財政赤字のみ強調するのは、赤字補填のための税率引き上げに導くための財務省の世論操作とも思える。菅総理が参議院選で「唐突に」消費税率引き上げを強調したことが民主党の敗因と言われるが、これも財務省の謀略に菅首相が乗せられたともいえる。

わが国財政赤字の克服は重要だが、主導産業の構造転換と技術革新を徹底して進め、成長政策を本格化することこそ重要である。わが国の産業設備は平均13年と老朽化し、企業の設備投資志向は強い。ところが、民主党の議会軽視傾向が強く、この重大な時期に9月の党首選のための派閥会合に急がしそうで積極的政策展開が見られない。もっと積極的に与野党の政策的合意を進め、積極的前向きの経済政策を進めるべきである。共同通信による主要企業107社対象アンケート( 8月15日発表)によれば、民主党の政権運営について、「評価する」0 、「どちらかといえば評価する」9 社、「評価しない」24社、「どちらかといえば評価しない」22社となっており、経済界の評価がきわめて厳しい。(伴)

 

 


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