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最近のライフパタン・アルゴリズムに関する学会発表

ゆとりとライフパタン(3)-ライフパタンとは-

○八木隆一郎(国際経済労働研究所)
山下 京 (大阪大学大学院人間科学研究科)
古川秀夫(龍谷大学国際文化学部)

研究の背景と目的

労働時間短縮や高齢化などに伴う自由時間の増大により趣味や観光、ボランティアなどの余暇活動に向けられる時間は増加し、その質が生活全体における充実度の重要な決定因となる。日本人に欠けているといわれるゆとりと余暇・自由時間の過ごし方に関する実証的研究は未だ少なく,どのような余暇活動がゆとりを生みだし,生きがいと結びついているのかを把握する必要がある。
加えて,ゆとり感や生きがい創出にかかわる自由時間の過ごし方は、各々の年代や志向するライフスタイルによって異なってくることが当然予想される。この点を加味した新しい時系列生活変化パタンモデル(ライフパタン)の提示が必要である。
◆広義のライフパタンという概念には、ゆとりを含む、生活におけるあらゆる変数が含まれうる。ここでは、横断的に取り出した生活領 域と暦年齢からなる資料から算出される狭義 のライフパタンを報告する。

■ライフパタンとは

・従来,臨床心理学や教育心理学などで発展してきた生涯発達研究と、社会心理学や組織心理学などで発展してきたライフスタイル研究やキャリア発達研究を統合して「生活」に関する発達的変化の観点を含んだ新しい心理学的モデル。
・量的データよって横断的に取り出した生活領域と生涯発達的観点からみた発達段階とを組合せることによって統計的に共通のパタンを見出し,立体的に記述しようという試み。これまでインタビューなどの質的データで主観的にしか記述されてこなかった(例えば,Levinson,1978)人の時系列的生活変化のパタンについての実証的データを蓄積することが可能

これまでインタビューなどの質的データで主観的にしか記述されてこなかった(例えば,Levinson,1978)人の時系列的生活変化のパタンについての実証的データを蓄積することが可能

ライフパタンとは
 

時系列的変化を考慮したライフパタン抽出の手続き

<データ>

大手電機メーカー社員10000名(C~F調査票各2500名)から有効回答が得られた合計9141件のうち,想起法によるライフパタン構成用項目が含まれたE調査票の有効回答数2412件(組合員2352件、非組合員60件)を使用。

1. ライフパタン類型化に用いるサンプルの選定

以下の3点の処理により、分析対象として595件を選定した。

  • 30歳未満のデータは就職してから現在までの期間が短く、生活スタイルの変化が十分にとらえられないため分析から除外した。
  • 3時点について「年齢」および、生活領域に対する「時間の使い方」「楽しみ・生きがい」のいずれかに回答不備(未回答など)があった場合は削除。
  • 4つの生活領域に対する「時間の使い方」「楽しみ・生きがい」各々の得点が合計100にならない場合は削除した。

生活上の「時間の使い方」、および、「生きがい・楽しみ」の対象について、 「仕事」「家庭」「余暇」「地域・社会」という4つの生活領域でそれぞれどのくらいの割合を占めているか、4領域の合計が100点となるよう得点配分してもらうという設問を設定

ライフパタン構成用の設問

現在と過去2時点の合計3時点についてそれぞれ回答を求める。過去2時点に関する設問では、就職してから現在までの期間の中で記憶に残る2つの時点を回答者に任意に選ばせ,その当時の自分の年齢と生活について想起してもらい,回答を求めた。これら3時点の回答を、回答者それぞれにつき、時点が古い順(回答した時点の年齢が若い順)に「過去2」「過去1」「現在」と並べることで、当該人物の生活スタイルがどのように変化してきたのかを3段階で検討することが可能。
このようにして得られた3時点のデータ、すなわち、3段階で変化していく過程のパタンを以下の手順にしたがい類型化を行った。

<設問>
あなたの生活の、「時間の使い方」、「生きがい・楽しみ」の対象について、「①職場・仕事」「②家庭・家族」「③余暇・趣味」「④地域・社会」の4つの領域はどのくらいの割合を占めていますか。全体が100となるように配分してください。

生活領域 ①職場・仕事 ②家庭・家族 ③余暇・趣味 ④地域・社会 合計
時間         100
生きがい・楽しみ         100

2.類型化の基準となる要因を見出す分析

第1段階:4つの生活領域に対する得点配分の仕方において共通するパタンの把握

まず、前述の手順で選定されたサンプルから、各サンプルの3つの時点それぞれにおける生活領域の得点をバラバラにしたデータを作成し、主成分分析によって生活領域への得点配分のパターンを抽出した(第1回主成分分析の実施:資料参照)。

第2段階:生活領域への得点配分の時系列変化に共通するパタンの把握

次に、各サンプルについて現在の年齢と生活領域得点、過去2時点の想起によって回答された年齢とその当時の生活領域得点、合計3時点の生活領域得点を時系列に(時点が古いもの=想起された年齢および現在の実年齢を含めて年齢が若いものから順ノ)並べたデータを作成した。この時、年齢は「25歳未満」から「50歳以上」まで5歳刻みで7つのカテゴリーにまとめ、回答のない年齢層については、多次元選好分析を用いて算出した推定値で補った。

以上のようなデータを用いて、三相主成分分析を行い、生活領域に対する得点配分が時間とともにどのように変化するか、変化のパターンを抽出した(第2回主成分分析の実施:資料参照)。

分析の結果、ライフパタンの分類基準となる4つの軸が見出された。これら4つの軸ではそれぞれその特徴をもつタイプ(プラス方向)と、それとは逆の特徴をもつタイプ(マイナス方向)とで対立的な2つのタイプを分類することができる。この4軸のプラス・マイナスすべての組み合わせによって設定される16類型をライフパタン類型の基礎とした。

 

  • 第1軸:仕事軽視型(マイナス方向は―仕事配分型)
  • 第2軸:社会的ミドル型(マイナス方向は―家庭配分型)
  • 第3軸:外発的仕事型(マイナス方向は―内発的仕事型または外発的私生活型)
  • 第4軸:余暇軽視・家庭重視型(マイナス方向は―余暇配分型)

以上のような4軸に基づき、各サンプルについて、4軸それぞれの方向(プラス・マイナス)を検討するとともに、生活領域の配分の時系列分布を比較し、非常によく似た類型をまとめ、最終的に以下の7類型が得られた。

時系列ライフパタンの7類型
  • 第1類型:外発的私生活型(34.5%)
  • 第2類型:外発的仕事型(32.2%)
  • 第3類型:仕事偏重型(8.2%)
  • 第4類型:ミドル転換期型(5.6%)
  • 第5類型:家庭偏重型(7.1%)
  • 第6類型:地域社会配分型(5.6%)
  • 第7類型:余暇配分型(6.8%)

まとめとこれからの展望

ライフパタン研究は,現在進行中のライフパタン研究会における共同プロジェクトであり,本発表ではあえて未整理の状態の最新の成果を報告した。時系列的変化を考慮した三相因子分析に基づくライフパタンとゆとりとの関係は,昨年、本学会で報告した簡易版ライフパタンの結果とは異なっていた。中年の転換期がみられる類型など今後の展開に大いなる示唆を与えるものであった。

今後,時系列的生活変化を考慮したライフパタンモデルを洗練し,他の変数との関係についても検討を行う必要がある。


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