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【2008年5/6月号】イスラエルを現地に見る―転換の中のパレスティナ―

イスラエ ル問題が気になって、一度ゆっくりと現地視察をしてみたいと思っていたが、この3月ようやく機会が出来たので10日ばかりイスラエル全土を回ってみた。か つて90年代半ばには、シリア・ヨルダン・イランなどを旅して伺い知ることも多かったが、イラク戦争後やポスト・アラファトのパレスティナの変化も気にな るところであった。しかし、実際に旅立ちの準備をすると、ドンパチが始まったりして思うようにいかなかった。近年、若干落ち着いた模様で、今回の現地視察 も可能になった。もとよりキリスト教の聖地でもあり、ユダヤ・イスラムを含む4つの宗教の聖地でもあるのだから、そのことにも大いに関心がある。

率直に言って、領土の1割に及ぶ死海は海抜マイナス400mに位置し、その周辺は岩塩で出来た屹立した岩山やクレーターで月世界を思わせるが、これに続 く国土の半分以上は緑なき砂漠という激しい自然環境である。キリストが起こした奇跡について、われわれ信仰心浅き異教徒はあまり信じない傾向にあるが、現 地に赴いて、キリストの足跡や人との出会い、説教の内容など故事を具体的に日時まで示して説明されるとかなりリアリティを持てる。日本国中歩いて池を掘っ たり、灌漑や農作の知恵を施して奇跡を起こした弘法大師の故事と似たようなリアリティである。

現実のパレスティナは、世界からの援助とイスラエル側の融和策もあって生活は改善され、ずいぶんと対立は緩和されているとみられた。もとより、過激派が 行動を起こすと緊張感は高まる。現実に我々の滞在中に自爆テロが1件あった。しかし、だれも騒ぎはしない。多くの市民は夜はシェルターで寝ている。現実に 自爆テロの担い手は、ハンディキャップを持つ人や女性・子供など弱者が大半という。つまり、弱者に恵みを与えて殉教者に仕立て上げる作業がプロの手でひそ かに遂行されているわけだ。だとすれば、次第にパレスティナ住民の働く場が増え生活が安定してくると、健常者の自爆はなくなるということになる。筆者が旅 をした時点で、イスラエルで一般に流布されていた情報の中に、「北朝鮮がシリアに核開発のための技術者など10人程度秘密裡に送り込み、現地で働かせてい たところ、イスラエルはこれに警告してピンポイント爆撃を行い、北朝鮮の要員に犠牲者が出たが、北朝鮮はこれを公表もできないし、抗議も賠償請求もできな くて困っている」というのがあった。世界でも日本でもこの情報は明らかにされていなかったが、この5月に入ってブッシュ政権が、この北朝鮮―シリア共同核 開発を暴露した。我々の知らないところでこのような事実が進行しており、日本のメディアなどはその種の情報の外側におかれていながら、それさえ自覚してい ないことを痛感したものである。現地で確かめてみないとわからないことが多いのである。(伴)


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