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【第19回】闇経済のグローバル化―激増する麻薬取引―

はじめに

反テロ戦争が、皮肉にも、テロの拡散を生み出している。CIAは、叩き潰したい勢力(ほとんどの場合、反米政権)に対抗して、反政府ゲリラを育成してき た。しかし、反政府勢力の資金源は、例外なく麻薬取引であった。反政府ゲリラを支援することは、それが秘密裏に行う作戦であるために、CIAは公的な資金 を使用できない。いきおい、CIAは闇の資金に依存してしまう。闇資金のほとんどは麻薬取引から生まれるので、結果的に麻薬取引業者とCIA工作員は癒着 し、「汚れた資金」を洗浄するための金融の裏取引に傾斜してしまう。こうした汚い資金で強化されたゲリラ組織がより多くの麻薬利権を求めて、最終的には米 国と離反する。建前的に麻薬取引を撲滅することを原則とする米国政府が今度は邪魔になるからである。こうして、局地的に育成したゲリラ組織が世界各地に拡 散する。

タリバンへの言い掛かり

2001年10月、米国のアフガニスタン侵攻が開始された。その後、アフガニスタンの芥子栽培地域である「黄金の三日月地域」(Golden Crescent)から輸出されるアヘン量が激増した。米国は、オサマ・ビン・ラディン(Osama Bin Ladin)、タリバン(Taliban)が芥子栽培を促進してきたと非難している。たとえば、米国務次官補(Assitant Secretary of State)のロバート・チャールズ(Robert Charles)などは、2004年4月1日の議会証言で、ヘロインの商売がタリバンの金庫を潤しているとして、次のように言い切った。
「アヘン取引によって、まさに、何十億ドルもの資金が過激集団や犯罪集団に渡っている。芥子の供給を削減させることが、テロリズムに抗するグローバルな 戦争に勝ち抜き、安全で安定した民主主義を確立するために不可欠なことである」(Chossudovsky, Michel,"Washinton's Hidden Agenda: Restore the Drug Trade; The Spoils of War: Afghanistan's Multibillion Dollar Heroin Trade,"5 April 2004; http://globalresearch.ca/articles/CHO404A.html)。
しかし、米国政府は、タリバンがアヘン生産を禁止する面において、かなりの成果を挙げていたことを意図的に無視している。タリバンによるアヘン撲滅作戦 が成功した事実は、2001年10月の国連総会で報告されていた。この総会は、米軍によるアフガニスタン爆撃が開始されて後、2日後に開かれたものであ る。そこでは、タリバンの眼を見張るようなアヘン撲滅作戦の成功が絶賛されていた。「国連・麻薬・犯罪事務所」(United Nations Office on Drugs and Crime=UNODC)の理事の1人は、この国連総会において次のように報告した。
「本日、私はタリバンが彼らの支配地域で成し遂げた芥子栽培の禁止政策の成果についてお話します。アフガニスタンの芥子栽培に関するわれわれの調査で は、今年(2001年)のアヘン生産は年間185トンでした。昨年(2000年)では3300トンだったのだから、これは昨年より94%もの減少になりま す。2年前(1999年)には記録的な生産量で、4700トンありました。この量と比較すれば、今年の数値は97%もの減少なので す」(http://www.unodc.org/unodc/en/speech_2001-10-12_1.html)。
ところが、米軍の侵攻後、UNODCの説明は、トーンをガラリと変え、米政府と同じく、タリバンやオサマ・ビン・ラディンなどのテロリストたちのせいで、世界の麻薬生産が激増していると言うばかりである。

CIAのアヘン疑惑

タリバンがアフガニスタンを支配していた期間は、アヘン取引市場は機能していなかった。こうした市場が機能するためには、強力な闇組織が権力の黙認下で 取引に介在することが必要である。タリバンはこうした組織を抑圧していた。しかし、2001年10月のアフガニスタン侵攻によって、こうした闇組織が復活 し、アヘン取引も回復した。米国に支持されるカルザイ(Hamid Karzai)が大統領になった2002年には3400トンにまで激増したのである。
麻薬の汚染地帯でなかった黄金の三日月地域でアヘン生産が増加したのは、ソ連に対抗すべく、CIAが反ソ・ゲリラ組織のムジャヒディン(Mujahideen)に梃入れしたことによる。「地対空携帯ミサイル」(stinger missile)をはじめとした武器を彼らに買わせるべく、CIAは、アヘン生産に彼らが手を染めることを黙認し、アヘン販売で得た資金を合法化するための「資金洗浄」(money laundering)に各種金融機関を利用した。
この疑惑は、イラン・コントラ(Iran-Contra)とBCCI(Bank of Commerce and Credit International)のスキャンダルではしなくも明らかになった。BCCIのスキャンダルが発覚した後にも、同行のヘロイン疑惑の捜査は本格的に は行われず、2週間という短期の調査が米国でおざなりになされただけであった。『タイム』誌などは、これは米国当局による麻薬取引がばれないようにするた めであったと断じている("The Dirtiest Bank of All," Time, July 29, 1991, p. 22)。
CIAがアフガニスタンに本格的に介入するようになったのは、1979年からであった。そのわずか2年後、パキスタンとアフガニスタンの国境におけるヘ ロイン生産高は世界一に激増し、米国内のヘロイン消費の60%を供給するようになった。パキスタンに避難していたムジャヒディン・ゲリラがアフガニスタン に回帰してからは、彼らは農民に芥子栽培を命令した。それが、アフガニスタンをソ連支配から脱却するための「革命税」(revolutionary tax)であるとされたのである。そして、パキスタン情報機関の保護下で、アフガニスタンで生産されたアヘンをヘロインに加工する工場が数百個もパキスタ ン側の国境線に沿う地域で設立された。

世界第3位の取引商品

世界でもっとも貧しいアフガニスタンの農民がアヘンの最初の段階を担い、先進国の暴力団が販売の末端を担当し、途中の流通ルートと資金洗浄を世界のエリー トが支配しているという構図を想定することは、暴論であろうか。アヘンをめぐるヒエラルキーが世界的に存在しているのではないだろうか。最初のアフガニス タンのアヘン生産者たちの売り渡し価格の100倍が末端価格なのである(VOA=Voice of Americaの2004年2月27日の放送における米国高官の談話)。
UNODCは、2003年におけるアフガニスタンのアヘン生産額を、10億ドルと推定した。アフガニスタンの仲買人は13億ドルの収入を得た。つまり、 30%の利益を得た。13億ドルという数値は、アフガニスタンのGDPの約半分の大きさなのである。アフガニスタン農民が手に入れたアヘン販売価格は、1 キログラム当たり350ドルであった(http://www.poppies.org/news/104267739031389.shtml)。しか し、アフガニスタンでの取引は、アフガニスタン産アヘンの全取引額から見れば信じられないほどの少額である。UNODCの推計では、アフガニスタン発のア ヘンの世界全体での取引額は300億ドルになる。13億ドルだけでも大変な額なのに、30倍にもなったのである。
ヘロインになると価格は爆発的に高騰する。1キログラムのアヘンから100グラムのヘロインが抽出できる。ニューヨークのヘロインの末端価格は、1キログラム当たり10万ドルであった(純度75%)(National Drug Intelligence Center; http://www.usdoj.gov/ndic/pubs/648/ny_econ.htm)。ただし、ニューヨークのヘロインはアフガニスタン産よりコロンビア産の方が多い。それで も、英国で消費されるヘロインの90%はアフガニスタン産である。世界のヘロインの70%はアフガニスタン産である。アフガニスタン産のヘロインは世界で 4000億から5000億ドルを稼ぎ出している(Lapper,Richard,"UN Fears Growth of Heroin Trade,"Financial Times, February 24, 2000)。
国連が世界のアヘン貿易額を初めて推定したのは、1994年であったが、この額はこの年の石油貿易額に匹敵していた。IMFの推計によれば、マネー・ロ ンダリング(資金洗浄)の額は、世界全体で年間1.5兆ドルある。これは世界全体のGDPの5%に相当する額である(Asian Banker, August 15, 2003)。この資金洗浄のほとんどは麻薬関係であるという。ちなみに、商品として世界でもっとも多額の取引は石油であり、第2は武器取引、そして第3位 が麻薬取引なのである(The Independent, February 29, 2004)。

おわりに

ソ連のアフガニスタン駐留時代に、内外から米国はアフガニ スタンの麻薬取引の実態調査に乗り出すべきだとの要請が出されてはいた。しかし、米当局は、当面もっとも重要なことは対ソ連の軍事行動を取ることであっ て、アヘン問題はいまは小さなことであると言い逃れしていた(Alfred McCoy, "Drug Fallout: The CIA's Forty Year Complicity on the Narcotics Trade," The Progressive, August 1, 1997)。
これだけの巨額の取引が、単にテロリストや地方軍閥の手に独占されているとは想像しにくい。むしろ正統な位置にある権力がこの販売ルートを支配している と見なす方が自然なことではないだろうか。麻薬の販売ルートを支配することは、石油パイプラインを支配することと同じ重要性をもつ。CIAがその最大のオ ルガナイザーであるとの疑惑は否定しきれないのである。


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