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【2008年3月号】厳しさとダイナミズムの中のアメリカ大統領選―お寒い日本の現状と比べるのは無駄か―

アメリカ大統領選のニュースが日本のマスコミを圧倒している。数十億ドルの金を使って2年間、全国各州のニュースを支配するこの選挙戦は、よい面ばかりとはいえないが、ともかく国民全体を巻き込んで政策論争を白熱させる。この威力には、敬意を表する。

今回の選挙では、当初民主党はもとより最終的にヒラリー・クリントンの1人勝ちのように見られていた。ところが、黒人出身のオバマが選挙戦直前に民主党 候補として彗星の如く出現した。上院議員ではあったが特筆すべき知名度もなく、ただ「アメリカ国民のためにアメリカを変えよう」という演説が人々を捉えて ヒラリーを追い込むことになった。9.11テロ以降、中東問題・人種問題と戦争の泥沼の中で、単にブッシュ政権の没落にとどまらず、アメリカの威信と経済 的没落への不安の中で、どうしようもない人々の政治不信と摩擦といらだちによる国民的分裂からの癒しと新たな統合への叫びが選挙戦の状況を変えた。もとも とラディカル・リベラルでもあったヒラリーは、切れ者として大統領候補に名乗りをあげ、イラク侵攻に賛成し共和党支持者をも意識して中道へ路線修正して臨 んだが、「神」とまで言われるほどに演説の崇高さを持つオバマのために、本来獲得し得たとみられる各州での支持をも取り逃がし、夫クリントンの演説がマイ ナスとなって、スーパーチューズデーでも決定的優位を得られず、勝利のめどは終盤まで持ち込まれることになった。もとより、さすがのアメリカ人の中にも、 初めての女性大統領の出現への期待とは別個に、軍事大国アメリカの総司令官に女性が座ることに抵抗をもつ人々がいる点も影響している。加えて、共和党は早 くもマケインに絞り込んだ。共和党も当初は、9.11テロに対抗した英雄―当時のニューヨーク市長ジュリアーニの1人勝ちとまでいわれたが、選挙戦に入っ て、3度の離婚経験と堕胎容認が共和党支持保守層の反発を買い、早くも辞退宣言に追い込まれるに至った。大統領選の予測として、民主党がヒラリーを選べ ば、ヴェトナムでの戦闘体験と軍事問題の解決に力を発揮し得るマケイン共和党が有利、民主党がオバマを選べば国内できしむ人種問題から、中東アフリカに至 るエスニックポリティックスにアメリカにとっての新しい境地を開きうるとして有利になるという論評が有力といわれる。

こういった一連の動きの中に、候補者は候補者なりに個別の政策選択にとどまらず、自己の政治哲学を表現して国家の戦略を問い、それに呼応した選挙民の支 持動向が表現されるアメリカ大統領選の劇場型政治の姿が熱っぽく迫ってくる。わが国のマスコミが何故これほどまでにアメリカ大統領選の報道に紙面と時間を 割くのか。わが国にとっても世界にとっても重大な影響をもたらすから、という紋切り型の回答を誰も期待しないであろう。
「小選挙区制にすれば2大政党制が進む」といった政治家の発言とは、余りにもかけ離れた、わが国の現在進行中の選挙と国会が、上に見るような国家の命運 にかかわる戦略的政策や政治哲学の選択をめぐる争いの場とほど遠いことと関係があるからであろう。(伴)


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