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【2005年8月号】新段階の試練にさらされるEU

EU成立から統一通貨ユーロへ、そして拡大25カ国加盟へと順風満帆ですすんできたかに見えたEUが、ここにきて急速に求心力喪失の様相を見せている。そ の顕著な表現は、EU憲法の国民投票が、原加盟国でほとんど問題なしと思われていたフランスとオランダで否決されたことである。去る6月16日の首脳会議 で、批准作業は続けるが、当初予定の11月発効は延期し、来年前半に発効時期などを改めて再協議することとなり、これに関連して、英・デンマーク・ポルト ガル・チェコ・アイルランドは国民投票自体を凍結することとなった。これによって10カ国は、国民投票か議会による批准を終えたことになるが、仏・蘭を除 き13カ国が未批准となる。

この影響はもとより、これを取り巻く情勢もきわめて深刻である。フランスはこの責任をとって首相が引責辞職し、アメリカのイラク戦争決定に際して、徹底 して抵抗したフランス外相でシラクの懐刀といわれるドビルバンが首相に就任した。そして、ドイツは批准は決定したものの最大のノルトライン・ウェストファ レン州議会選挙で野党に大敗したシュレーダー首相は、7月1日連邦議会で憲法の規定を逆手にとり、信任投票によって自らの不信任による来年9月選挙の1年 前倒しの起死回生の総選挙を実施し、薄氷の過半数から脱出するという「勝算なき進撃?」に賭けようとしている。

EUでは、仏・独・蘭・白など原加盟国においては、新たに加盟した東欧の旧社会主義国等に向かって資本の流出や工場の移転が進む一方で、域外からの人口 の多量の流入と貧困者の増大の結果、失業の増大と在来の定住者への雇用不安と治安の悪化など生活不安が拡大し、それが政府批判の増加と労使紛争の激化を招 き、さらに政治的には右翼の伸張を招いているが、その結果が国民投票の不成立や政権の不安定を招いているといってよい。このように、シラク・シュレーダー というEUの牽引役であったトップリーダーの陰りはEUそのものの前途を不安定にしている。もう一方のリーダーであるイギリスのブレアも、サッチャーと異 なってEUには協力的だがユーロには不参加であり、しかも先般来仏・独の農業保護重視のEU予算に対立してきた経緯がある。さらに、アメリカのイラク介入 について、仏・独・白と英・伊・蘭その他とが真っ向から対立してきたし、EU大統領制などを含む憲法そのものをめぐっても仏・独のやや性急な政治統合にも 対立点がある。明らかにEUは曲がり角にある。もとより、50年に及ぶ統合の歴史がおいそれと崩れるものでもないし、その実績は大きい。しかし、相当な格 差と多様性を内部に持つ、より巨大化した国家連合にとって、政策とシステムをより民意の的確な参画と共通意識によって支える構造を、どのように再構築する かが再問される段階に入ったといってよいだろう。(伴)


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