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【2005年5/6月号】うろたえる中国指導部―第2天安門事件の可能性―

今回の中国におけるいわゆる反日デモは、発生当初から中国指導部の態度が、すべての原因は日本政府の歴史認識の誤りに起因するものとして、大使館をはじめ 日本公館や日系企業・店舗に対する破壊行為から日本人いじめに至るまでその責任を日本側に帰して謝罪にも修復にも応じなかった。外国公館に対する破壊活動 は、ウィーン条約による国際法違反として明らかなことであり、かつて文化大革命の際に紅衛兵がイギリス大使館に対して同様の行為を行った際にも同じ態度を とり、ずいぶん後に陳謝したことがあったように、いずれ謝罪せざるを得ないものを、一時の勢いで無理を通そうというところに、中国指導部の居丈高というよ りは狼狽ぶりが伺えた。温家宝といい、外相といい、スポークスマンといい、その発言は国際常識を逸脱したものであったし、胡錦涛も同様な態度であった。

それは、まず、最初のデモの発生が3月下旬にあることが示す。すなわち、アナン国連事務総長が日本の国連常任理事国入りを肯定する発言を行った3月21 日の翌日―中国時間23日夜、中国の3大インターネットサイトは、「日本の国連安保常任理事国入り反対」の署名用ページを開設し、同時に反日民間有力団体 が署名を呼びかけ、全国各紙もこれを大きく報じ、29日には、これらの署名が1,000万を超えたことが報道され、4月5日、日本で「新しい歴史教科書」 が検定合格になり、もう一つのテーマが急浮上する(『Voice』6月号56頁、石平論文)。かくて、4月9日・10日に北京・広東省で1万人を上回る集 会・デモに発展し、それが荒れ狂うことになる。

これらの集会・デモは、明らかに、アナン発言へのリアクションとしての政治的計画的行動なのであり、中国指導部の意図を反映したものと見ざるを得ない。 これらのデモが政府のサポートによることは明らかである。ところが、この事実が世界のマスコミをにぎわし、オリンピック開催への不安が意識されるようにな り、中国指導部は急遽抑圧に転換した。そこまで見とおせなかったというのも国家リーダーとしてお粗末であるが、最近は、公式謝罪はしないが、公館の修復や 公邸などへの見舞金名目による賠償を提案してきたようである。これが、文革時代紅衛兵だったリーダーの国際感覚かもしれない。

いずれにしても、政府・民衆ともに植民地時代の運動意識から脱却できていないが、失業者や農村の貧困による貧富の差の拡大が、反日から一挙に反政府暴動 に転換する可能性を持ち始め、携帯電話とインターネットの普及が数日のうちに1,000万単位のプロテストに波及するというIT時代の到来が中国指導部の 心胆を寒からしめて、第2天安門事件を想起させ、抑圧(弾圧ではより反発を招くので)に向かわせたと見るべきだろう。(伴)


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