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【2003年9月号】安定と不安定のないまぜの中のバカンス

この夏、トルコを経て、ブルガリア、ルーマニアを訪れた。トルコは17年ぶり、ブルガリアは11年ぶりである。いずれも、来年に、中欧・地中海の10カ国が新たにEU加盟するが、その次にEU加盟が予定されている国々である。

トルコは1人当りGDP3,000$でタイを上回り、景気停滞下にあるが、NIEsレベルに達しており、イスタンブールは観光客も多く繁華である。来年 EU加盟となるバルト3国などに類似したレベルではあり、NATOの加盟国で、EU加盟を早くから要請しているが、EU側はやや消極的である。その表向き の理由は、クルド族への抑圧など民族問題を抱えていることにあるが、ホンネは、キリスト教連合のEUが、イスラムのトルコにはやや違和感を持つからかもし れない。それと、ハイパーインフレで為替レートが1$=1,200万リラ(1\=10万リラ)という驚異的な経済事情も原因にあるかもしれない。そのため に、日常的な買物でも億単位の支払いが普通で、しかも、1日に数%上昇している。しかし、ボスフォラス海峡を挟んで欧・亜に跨がり、巨大モスクが林立する イスタンブールは絶景である。

ブルガリアは、人口900万、1人当たりGDP1,500$程度、かつてソ連の農場といわれ、ソ連からの原料輸入によって鉄鋼・非鉄金属・化学工場を展 開して、製品をソ連に売っていたが今やソ連の援助が途絶えて工場規模も縮小し、セメントと繊維などに限定され、市場経済化もそれほどすすんでいない。政権 は一旦退いた旧共産党(現社会民主党)が返り咲き、比較的安定しているようである。通貨は数年前にデノミを実施して、やや安定しているように見られるが、 貧困からの脱出には時間がかかろう。

ルーマニアは人口2,200万、1人当たりGDPは1,600$程度、強烈なインフレで、為替レートは1$=32,000レイ、トルコほどではないが、 日用品でも1020万単位の通貨が動く。この国は、産油国であり、各地に石油コンビナートがあるが、かつてチャウシェスクの輸出強行策による国内疲幣が 今日まで尾を引いており、ブカレストやカントリーサイドには美しい建造物や世界遺産が多いが、市場経済化は未だで、貧困からは脱出できていない。

かつてバルカンのパリといわれたブカレストも、19世紀の建築遺産は多いが、いずれもくたびれ、インフラ整備も遅れている。ブカレストの最大の観光資源 は、1,700億$・8年の歳月をかけたペンタゴンに次ぐ世界第2の巨大さを持つ絢爛たる「国民の館」で、建築主チャウシェスクは使用せずに命を失った。 今日も未完成であるが、ここに国会がおかれ、厳重な警備で参観に供している。潰せとはいわないが、この国民抑圧の象徴を、国民は遺産として誇りに思ってい るのかどうか、不思議な建造物に感じられる。この国の現在の首相は、かつて13歳で社会主義革命のために退位させられた旧王が帰り咲いている。

バルカンは、依然として不思議な安定と不安定さを漂わせている感じである。(伴)


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