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【2017年1月号】EUの動揺と欧州の動向

ギリシアの財政困難に端を発して南欧の財政困難が露呈 し、さらに英国のEU離脱にまで波及した問題は、未だ英国 の具体的な条件が明らかになっていない面から必ずしも決 定的な様相には至っていないが、EUの揺らぎあるいはほこ ろびが明らかになる可能性がある。ここに至ってEU結成の 無理なども思い起こされて、EU解体の可能性まで論議され ている模様である。

もともと加盟各国の経済の自由を前提に財政拠出のみ で共同性を求めた結果、様々な欠陥が露呈したのではある が、それでも最も大きな問題点は難民問題に露呈したといっ てよいが、これはおそらく当初あまり想定されていなかったと みられる。国境をなくして移動を自由にするというはEUで最 も理想とされたものであり、それこそが最も重視された原理で あるが、その理想が最大の不安要因になったのである。

EUは拡大路線を選択し加盟は欧州全土の27か国に及 んだが、もとよりユーロ加盟は12か国に限定されたものの7 年の準備期間をもって成立した。

独仏が中核となって促進されたが、ドイツは最も有力なマ ルクという通貨をユーロに転換するという大胆な行動に出た わけであり、独仏は将来単なる市場統合にとどまらず国家 統合まで積極的に展望していたのである。英国はかつて基 軸通貨でもったポンドを守ってそこまでは考えていなかったで あろうが、独仏の勢いに押されて積極的に参加したが、英国 は従来国際的に金融・保険におけるアドバンテージを持って いたので限定的なコミットであった。そのため、その不利益が 目立ってくると今回のように離脱をほのめかすようになったと いえる。

しかし、EUへのコミットが今回のように揺らいできたのは、 国境を越えて自由な移動の保障が予期せざる裏目に出た 膨大な難民の移動やそれに伴う国家主権の侵害をもたら す可能性に直面したことで、EUの存在価値を揺るがすよう な影響が出たというべきであろう。もとより共同市場への追 求はとどまるものではないが、国境の自由化と移動の自由が 難民問題に直面したショックで修正あるいは原理的な問い 直しの段階に入ったといってよいであろう。

(会長・板東 慧)


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