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6:韓国労働組合による組織転換の現状とその課題<1/2>

常葉大学法学部 講師 安 周永

1. 企業別労働組合の特徴と問題点

本稿の目的は、韓国労働組合が進めている企業別組織から産業別組織への転換を検討し、今後の韓国労働運動の展望を検討することにある。韓国においては日本と同様に労働組合は主に企業別に組織されたが、このような組織構造は、OECD諸国と の比較から見れば、極めて異質なものである。
 
労働組合の財政や人的配分が企業別労働組合に集中し、企業別労働組合の上部団体である産業別労働組合やナショナルセンターは、団体交渉の妥結や争議行為を決定する権限を持っておらず、その権限は企業別労働組合にある。企業別労働組合は 企業内待遇の改善に取り組むインセンティブを持つため、企業外に組合組織の根拠を置く欧米に比べ て、韓国の労働組合の活動は個別企業の状況に左右され、企業エゴイズムに陥りやすい。
 
また、企業別に労働組合が形成された結果、大企業の正社員のみが組織化されることになり、非正規労働者と中小企業の労働者はほとんど労働組合から排除されることとなった。韓国の非正規労働者の組織率(2010年)は、2.8%に止まっており(経済活動人口調査勤労形態別付加調査)、これは同時期の労働組合の組織率9.8%よりもはるかに低い数 字である。また企業規模が小さければ小さいほど、労働組合の組織率は低い。「労働組合組織現況」によれば、29人以下の事業所における労働組合の組織率は0.1%、30 ~ 99人の事業所は2.4%であるの に対して、100 ~ 299人の事業所は14.6%で、300 人以上の事業所は43.4%に至っている(雇用労働 部 2010: 11)。

このように中小企業の労働者や非正規労働者は労働組合から排除されるため、非正規労働者や中小企業の労働者の賃金や労働条件は労働協約の対象にならず、雇用形態別・企業規模別の賃金格差が拡大することになる。これだけではなく、最低賃金制度、労働法改正、社会保険に関する審議会に おいても労働組合だけが労働者代表として参加しているため、非正規労働者や中小企業の労働者の声は構造的に反映され難くなる。労使交渉だけでは なく、社会政策からも非正規労働者や中小企業の労働者は排除されているのである。

労働組合の組織構造から生じる排除という問題 は、グローバル化やサービス産業化が進むにつれ、さらに深刻なものとなる。企業別労働組合は、非正規労働の増加や雇用の多様化が進んでも、産業全体や労働者全体を視野に入れることができないため、 それらへの対応が困難であるからである。この結果、 中核労働者を中心とした内部労働市場が衰退し、非正規労働が増加しているにもかかわらず、非正規労働の劣悪な労働条件は改善されないのである。
 

2. 韓国労働組合の組織転換  

韓国の労働組合は、企業別労働組合の問題点を認識し、組織転換の意欲を示してきた。対決主義路線を堅持する全国民主労働組合総連盟(略称: 民主労総)は、1995年結成当時から企業別労働組合の問題点を指摘し、産業別労働組合への転換を 標榜した。協調路線を堅持する韓国労働組合総連 盟(略称:韓国労総)は民主労総とは距離を置きながらも、1997年から産業別労働組合への転換を掲 − 27 − げるようになった。

民主労総は、1996年の労働法改正の経験から本格的に産業別労働組合への転換を進めた。当時の金泳三政権と与党は整理解雇制や裁量労働制の導入を進め、労働組合の反対にもかかわらず一方的に労働法改正を行った。民主労総は、ゼネストを行い、いったん改正案を撤回させたものの、再び与党主導によって改正された内容も労働組合の望 む案とは程遠いものであった。これ以降民主労総は、企業別労働組合の構造ではマクロな政策過程に影響力を発揮することが困難であることを認識し、 産業別労働組合への転換に積極的に取り組んだ。 1998年2月に全国医療産業労組から産業別労働 組合への転換が始まり、2000年3月に全国金融産業労組、2001年2月に全国金属労働組合、2006年には全国運輸産業労働組合が設立された。2010 年の時点で、民主労総の組合員の79.5%は産業別労働組合に所属しており、韓国労総を含めても 54.1%が産業別労働組合に属している(雇用労働 部 2010: 11)。

もちろん、組織転換は容易ではなかった。組織転換のためには、企業別労働組合から上部団体への組合費の上納や権限の委譲だけではなく、活動範囲の拡大が必要となる。現在の雇用慣行では、非正規労働の待遇改善が正規労働の雇用不安定を招く可能性が高いため、その転換には労働組合の幹部及び組合員の譲歩を伴わなければならない。ま た、未だに経営側の反対によって、労使交渉は産業 別にほとんど行われず、韓国における産業別労働 組合への転換における課題も残されている。しかし、このような転換自体は、労働組合の既得権を打破 し、未組織労働者も代表する方向に踏み切ったもの として評価できよう。組織転換によって労働組合の活動は、必然的に企業単位の労働条件に限定され ず、社会に向けたものにならざるを得ず、従来の労 働組合から排除された労働者の包摂も必要になっ てくる。

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