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【2010年5/6月号】揺らぎが顕著になり始めたEU‐ユーロ

EUが混迷している。その明確な象徴は、この2月、1999年のユーロ導入後12年目を迎えて起こった最大の危機――ギリシャの債務超過顕在化に対してその解決の仕組みがないこと、さらに加盟国の多くで米投資銀行のプロによる「粉飾」まがいの債務隠しが発覚したことである。ギリシャの財政赤字は、公式統計でも2009年度でGDPの13%、対外債務がGDP に匹敵する3千億ドルに達していた。しかし、実は、ギリシャはこの債務隠しを以前から米国の投資銀行「ゴールドマンサックス」に依頼して金融工学を駆使して帳消しにし、その報酬は30億ドル超であったといわれ、いわば国家規模で欧州中央銀行(ECB)を誤魔化してきたことになる。

このギリシャ救済については、スッタモンダの末、ユーロ崩壊を招くことを恐れたEU臨時首脳会議は支援決議によって可能となったが、ギリシャ国内では増税や歳出削減に反対するゼネストまで起こるし、ギリシャ政府首脳も開き直りとも取れる傾向にあり、今後さらに危機が訪れないとも限らない。必然的に最も負担を強いられるドイツでは世論調査によっても国民の3分の2がギリシャ救済に反対し、メルケル首相も国内向けにほとんどこのことを説明していないといわれる。

ギリシャ政府の態度の背景には、ポルトガルの財政赤字がGDPの9%、イタリアが同5%、アイルランドが同 13%、スペインが同11%など、債務赤字が顕在化していることがあり(これらの国々の頭文字をとってPIIGSといい、略してPIGS=豚どもともいう)、これらの国のGDP合計はEU全体の4割に達するので、いつドミノ現象が起こるとも限らない。これは、ユーロ導入にあたって定められた通貨の「安定・成長協定」で、①単年度財政赤字額のGDP比率が3%以内、②国債残高がGDPの60%以内、というルールがすでに公然と破られていることを意味するし、財政赤字に関してはすでにリーマン・ショック以来、フランスが8%、ドイツが5% と、どの国においてもすでに守られていないのである。

EUは27カ国に拡張し続け、ユーロ圏だけで16ヶ国となるが、旧社会主義圏や地中海諸国など経済水準がやや劣勢な部分も抱えこみ、それがリーマン・ショックの影響でかなり困難に陥った。最優等生といわれるドイツでさえも、旧東独部分の経済劣性を克服できないままである。今回のギリシャ危機への対応から、EU独自のIMF.類似機能の確立が試みられたが、結局はIMF 活用を継続することに落ち着いた。ドルへの対抗や米国ルールからの独立が試みられるが、そこまでに至らないだけでなく、一見優等生に見えてきたEU‐ユーロ体制が量的拡大と統合性の強化の矛盾の中で、逆に弱体化と揺らぎを生じてきたことは注目される。(伴)
 


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