本誌では新しい連載として、労働組合におけるジェンダー平等をテーマとするインタビュー「VOICES&VIEWS-クミジョを超えて」を開始予定である。本連載では、インタビューを4名の研究者で行っていただくが、「労働組合のジェンダー平等は待ったなしである」という統一的視点をもち、性別を問わず誰もが排除されない組織のあり方を考えるという趣旨である。労組のジェンダー平等にとって、「クミジョ」の活躍を応援することは、これまでの男性中心の状況を打破する第一歩となると考えられるが、「クミジョ」にあたる人たちだけでなく労働界、ひいては社会全体に寄与する連載にしていくことができればと考えている。
また、インタビューでは、労働組合で活躍される女性(クミジョ)をはじめ、「クミジョ」ではない方、労働組合役員以外(たとえば研究者など)などにも広くお話をうかがう予定である。できる限り、これまでに他のメディア等で紹介されていない方々にも光をあてたいと考えており、関西圏が多くなる可能性があるが、関西圏に限るというわけではない。
このページでは、連載の開始に先立ち、4名の研究者の方々および弊所にて2024年より本格的に研究を行っているダイバーシティ・アクト研究チームより、関心や問題意識についていただいた寄稿のうち、櫻井純理氏の記事を掲載する。
立命館大学産業社会学部 教授
本稿では、Int’lecowk で「労働組合のジェンダー平等」に関わるインタビュー連載を始めるにあたり、筆者が労働におけるジェンダー平等と組合運動について関心を抱いていることを記していく。筆者は女性の働き方やジェンダー平等の研究の専門家ではない。したがって、一介の女性労働者としての個人的な経験や、女性の働き方に関わる自分の「もやもや」なども吐露しつつ、インタビューで聞いてみたいことを挙げていきたいと考えている。
1. 女性労働者の多様性
周知のとおり、一口に「女性労働者」といってもその内実は多様である。とりわけ女性の場合は非正規雇用労働者〔職場での呼称が「正規の従業員」ではない者〕の比率が約53%と半数を超えている。男性以上に、働く動機や生活における仕事の位置づけ、キャリア展開の目標も多様であると考えられる。先にいわゆる正社員のほうを確認しておくと、全体のうち女性は27.2%、男性は72.8%を占めている(厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」)。コース別雇用管理制度における職種の違いでは、女性正社員のうち総合職は 38.6%、限定総合職は 15.4%、一般職は 37.9%である。他方、男性の場合のそれぞれの数値は 53.6%、8.6%、28.7%である1。そもそも女性の正社員は 3 割弱で、限定無しの正社員となるとさらに男性よりも比率が低く、「多様度」が高いことがわかる。
かたや非正規雇用労働者には、パートタイム労働者、アルバイト、派遣労働者、嘱託など様々な呼称の者が含まれるうえ、今では家計補助的に働く「主婦パート」ではない世帯の主たる働き手である者が増えている。特に問題なのは雇用形態間の賃金格差で、非正規雇用労働者の賃金は正規雇用労働者の 67%程度に留まっている。働き方改革で導入された同一労働同一賃金制度(パートタイム労働法・有期雇用労働法の改正)でも、責任の程度や配置変更の範囲などが「合理的」な待遇差の根拠として認められている。
こうした(女性)労働者の多様性と様々な格差があるなかで、労働組合がめざす「女性活躍」の理念や目標はどんなところに置かれているのか。とりわけどのような女性労働者のどんな問題解決に資する活動が重視ないしは優先課題とされているのか。これが1点目の関心事項である。
2. ケアの観点
1点目に挙げた事項と切り離すことができないのが、育児や介護などのケアの分担という観点である。育児・介護休業法の施行と改正によって、そうしたケアを抱えながらも就業が継続しやすい状況が整えられてきた。育児に関しては、第1子出産時に退職する女性労働者の割合は約3割で、出産前有職者の約7割が出産後も就業を継続している(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」、2021年)。しかし、この調査結果でも指摘されているのは、正規職員の就業継続率(83.4%)に比してパート・派遣労働者の就業継続率(40.3%)が低い点である。こうしたデータにも、女性労働者内部での恵まれた労働者層とそうでない者との断層が透けて見える。また、就業が継続できた場合であっても、いわゆる「マミートラック」をどう評価するかは重要な論点であろう。
介護は就業継続を阻む壁となるという点で、育児以上に普遍的なリスク要因である。筆者自身も老親の介護に直面し、自分事となってみて介護保険制度の実情に触れることになった。サービス付き高齢者住宅に母が入居していた頃は特に家族の負担が重く、頻繁に足を運ぶ必要があった(自宅介護の場合であればなおさら負担は重いだろう)。訪問ヘルパーの方が「良い娘さんがいて本当に良かったですね」と母に言っているのを耳にし、家族のなかでも妻・娘・「嫁」という女性がケアを担う常識の根強さを実感させられた。
これらをふまえて、筆者の2点目の関心は、労働組合ではこのようなケアの問題にどう向き合ってこられたのか、ということである。育児も介護も、男女問わず働く者すべてが直面するワーク・ライフ・バランスの本質的な課題領域である。この面でどのような取組みが功を奏し、まだ残る課題とはどこにあると考えておられるのかを知りたい。
3. デフォルトの働き方
3点目の関心は上記の2点目と地続きの核心的な論点に関わる。総務省「労働力調査(詳細集計)」では「不本意非正規雇用労働者」とは「正規の職員・従業員の仕事がないから」非正規雇用を選んだ労働者を指すものとしている。非正規雇用労働者に占める不本意労働者の割合(2024年)は、男性の 13.7%に対して女性は 6.5%と低い。だが、その他の理由をよく見る必要がある。非正規雇用で働いている理由で多いのは、「自分の都合のよい時間に働きたいから」(35.5%)、「家計の補助・学費等を得たいから」(17.8%)、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」(11.0%)の順である。
裏を返せば、いわゆる正規雇用の働き方は「都合のよい時間には働けない」し、「家事・育児・介護等と両立しにくい」ことが問題なのである。働き方改革はこの本丸の問題にあまり足を踏み入れなかったというのが、少なくとも筆者の見解である。日本の労働社会では、会社の命に応じて勤務地や担当職務や労働時間を変更するという意味での「柔軟性」の受容が重視されており、それこそが一人前の労働者の条件である点が揺らがない。長時間過重労働をデフォルトとするのが総合職正社員なら、そのような働き方をそもそも避けるのが賢明だと考える者が少なくないのは当然である。
厚生労働省の分析によると、男女間賃金格差の主たる要因は「役職」「勤続年数」とされている(厚生労働省「女性活躍推進法に基づく男女間賃金差異の情報公表について」2026年2月)。つまり、賃金格差の解消という点では、女性がより長く働き続け、より上位の役職に就くことが可能な労働環境を整えることが重要である。そのためには従来型の男性的な働き方の見直しが不可欠ではないのか。非正規雇用労働を中心とした実証研究を専門としていた労働社会学者の三山雅子氏は、「ケア付き労働者」が働き続けられるような働き方をデフォルトにしなくてはならない、ということを常々提唱しておられた。労働組合は、こうした労働条件(特に労働時間規制)に対してどのような方針で取組み、要求を実現してきたのか。これが3点目の関心である。
4. 女性リーダーの代表性と組合内部のジェンダー平等
4点目の関心事項は、個人的な経験に基づくものである。筆者は2020年度から3年間、所属している学部で「女性初」の学部長を務めることになった。振り返ってみて、それが組織にとって良いこと」だったのかどうかははなはだ怪しく、反省することばかりである。これは主には自分自身の職務適合性の問題であって、「女性だから」どうだったということではない。筆者自身にとって「女性である」ことは自分の属性のごく一部にすぎないことだが、女性はまずもって女性としてみられることを避けがたい。かなり前の話ではあるが、女性を積極的に役職者に登用している企業の女性労働者にインタビューをした際に、「うちの会社はスカートを履いていれば役職に上がれるが、それはおかしい」という批判が語られた。
アファーマティブ・アクションには賛否両論があり、そう(積極的是正の結果)でなくとも、登用された女性は職務の責任や周囲からの期待と向き合うことになる。そもそも、本稿の前半で言及したように、多様な女性労働者が存在するなかで自分がどれだけ女性労働者の実態や心情を理解し、それらを代表できるのだろうか。筆者は、その後もさらに高位の役職に押し上げられそうになる経験のなかで、自分の果たすべき/果たせる役割を考えざるをえなかった。労働組合の「女性リーダー」の皆さんも、女性ゆえのしんどさを感じたり経験したりしてきたのではないだろうか。もしそうだとしたら、それをどのように乗り越えてこられたのだろうか。インタビューではそのあたりの個人的な経験や思いを聞いてみたい。
最後に、労働組合内部の(たとえばリーダー層における役割分担などの)ジェンダー平等に問題はないのだろうか。筆者がずっと前に勤務していた民間企業の労働組合では、組合専従職員のなかでは女性が経理職務を担当するならわしとなっていた。そんな昔々の状況は今では解消されているのだろうが、まずは労働組合内部でどのようなジェンダー平等の取り組みが推進されてきた/されているのかも尋ねてみたい。以上、4点+αの関心事を記してきた。労働組合の現状をよく理解しない筋違いの内容が含まれているかもしれないが、その点はご容赦いただけると幸いである。
――注釈――
1 「その他」「不明」の回答があるため、合計値は 100%になっていない。