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地球儀 日本のハイブリッド米表示義務

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

ハイブリッド米と言われるコメがある。優秀な雑種第一世代の米のことである。異なる性質のものを掛け合わせてできた「新世代」を「ハイブリッド」という。生物は遺伝的に遠縁の品種間で雑種を作ると、その一代目(ハイブリッド、F1)に両親より優れた形質が現れ、しかも均一な性質を示す。この現象が「雑種強勢」(heterosis)と言われるものである。トウモロコシや野菜の品種のほとんどがハイブリッドである。


雄品種の花粉を雌品種に受粉させてできた種子を採種する米の雑種強勢の実用化に成功したのは中国である。インディカ米の中から雄性不稔株が一株見つかり、これにジャポニカ米を何度も、何度も掛け合わせて味を良くし、最後にまたインディカ米を掛け合わせて実の稔る種にすることに成功したのである。日本ではまだ1%弱だが、中国ではすでに、58%、米国では 39%がハイブリッド米だという(2009 年推計)(https://corezoprize.com/seed-9-hybrid-rice)。


ハイブリッド米は、通常の品種と比較して 15 ~ 30%の収量増が期待され、その栽培面積は中国では 58%、世界全体では 13% を占めている(https://www.affrc.maff.go.jp/docs/public_offering/agri_food/2016/26010a.html)。


ハイブリッド米の多くは、「多収米」である。多収米とは文字通り、「多量に収穫できる米」で、外食産業向けの「業務用米」という用途で使われている(https://www.jacom.or.jp/kome/rensai/2018/11/181113-36649.php)。


ハイブリッド米は、遺伝子組み換え食品でありながら、このことについて、農務省も消費者庁も明確な発言を避けているように見える。食品表示がないまま、売られているのが現状である。


その遺伝子組み換え食品の表示ルールが、2023年4月から変わった。ところが、変わったのは、「遺伝子組み換えである」ことを表示せよという点ではなく、その反対の「遺伝子組み換えでない」ことの表示に厳しい制限が課せられることになった点である(https://smbiz.asahi.com/article/14843308)。しかも、その審議に1年しかかけていない。


日本では、EUと異なり、「遺伝子組み換え表示」をしなくてもよい。しかし、「組み換えでない表示」については、かえって困難になったのである。

2024.5/6

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