本誌では新しい連載として、労働組合におけるジェンダー平等をテーマとするインタビュー「VOICES&VIEWS-クミジョを超えて」を開始予定である。本連載では、インタビューを4名の研究者で行っていただくが、「労働組合のジェンダー平等は待ったなしである」という統一的視点をもち、性別を問わず誰もが排除されない組織のあり方を考えるという趣旨である。労組のジェンダー平等にとって、「クミジョ」の活躍を応援することは、これまでの男性中心の状況を打破する第一歩となると考えられるが、「クミジョ」にあたる人たちだけでなく労働界、ひいては社会全体に寄与する連載にしていくことができればと考えている。
また、インタビューでは、労働組合で活躍される女性(クミジョ)をはじめ、「クミジョ」ではない方、労働組合役員以外(たとえば研究者など)などにも広くお話をうかがう予定である。できる限り、これまでに他のメディア等で紹介されていない方々にも光をあてたいと考えており、関西圏が多くなる可能性があるが、関西圏に限るというわけではない。
このページでは、連載の開始に先立ち、4名の研究者の方々および弊所にて2024年より本格的に研究を行っているダイバーシティ・アクト研究チームより、関心や問題意識についていただいた寄稿のうち、ダイバーシティ・アクト研究チームの記事を掲載する。
(公社)国際経済労働研究所
誰もがもう少し息のしやすい社会の実現を目指して
公益社団法人 国際経済労働研究所では、かねてより準備を進めてきた「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」にかかわる取り組みを、2024年度から本格的に開始した。 私たち研究チームは、“誰もがもう少し息のしやすい社会の実現”を目標に掲げている。この取り組みには、明確なゴールや唯一の正解があるわけではなく、時代や状況に応じて柔軟に変化し続けること、それ自体が重要であると考えている。
D&Iの課題領域には、ジェンダーやセクシュアリティ、外国人労働者や宗教、障がい者に関わる問題など、これまで個別に扱われがちだった様々な領域が含まれている。たとえマイノリティであっても、社会に対して声を上げられること。そして、その声をマジョリティや周囲の人たちがしっかりと受け止め、互いに呼応し合いながら、新しい風土や制度、活動へと柔軟につなげていくこと。最終的にはこうした状態を維持できる「腹落ち感のある」社会システムの実現こそが、私たちの目指すところである。
労働組合ならではの視点――「個人の幸福」に資する社会運動へ
D&Iが語られる際、その多くは「企業の生産性向上」や「組織のレジリエンス(危機管理・適応能力)」といったメリットの側面から重要性が説かれがちである。確かに、組織に対策を促す動機づけとしてこうした観点は必要だが、労働組合にとってはそれだけでは不十分であろう。働く者の立場から個人の幸福に資するという視点を、同時に両立させることが極めて重要だからである。
私たちは、組織自体の生産性や持続可能性の追求にとどまらず、そこで生活する我々一人ひとりが生き生きと働き、生活を充実させられる社会システムの構築を目指している。そしてこれを労働組合の皆様とともに、力強い「社会運動」として進展させていきたいと考えている。
「なぜ取り組むのか」を腹落ちさせるワークショップの開催
本研究チームの取り組みは 2024年、ジェンダー・セクシュアリティを第1のテーマに掲げてスタートを切った。ジェンダー平等については、現在、企業・労働組合の双方が数値目標を掲げ、具体的な対策を求められている。取り組みが進展している一方で、数値目標の達成ばかりが先行し、こなさなければならないノルマ(課題)」と化している現状への懸念もある。
そこで私たちチームは、まず「なぜ労働組合でジェンダーの問題に取り組む必要があるのか」を深く掘り下げ、その意義を心から「腹落ち」させた仲間を増やしていくことが最優先だと考えた。その第一歩として、ワークショップ「ダイバーシティ&インクルージョンはなぜ必要?―ジェンダーの観点から―」を企画し、様々な労働組合から参加者を募った。
2024年(8組織15名参加)、2025年(11組織13名参加)と2回開催したワークショップは、いずれも前半に私たち研究員や外部の専門家からの知見・話題提供を行い、後半にグループワークを行う構成とした。話題提供では、2024年は「ジェンダーに関わる偏見やステレオタイプ」「男性にとってのジェンダーの課題」について提起し、2025年は「無自覚な偏見や差別の助長」「家庭内での家事分担」の視点からジェンダー課題を考えた。
後半のグループワークでは、労働組合としてのジェンダー平等の取り組みについて、あえて「推進派」「慎重派」という立場を設定したロールプレイ形式の議論を行い、それぞれの立場で感じたことを共有した。例えば、「女性の管理職登用を推進する会社に対し、組合として人事評価の男女差などにどうアプローチできるか」という場面を想定し、推進の意義を訴える役と、懸念点や反対意見を述べる役に分かれて、現場のリアルな葛藤を交えた熱心な議論が展開された。
立場を超えた気づきと「グランドルール」の重要性
参加者からは、「組織で対応するときの参考になった」「自組織でも同様のワークをやってみたい」といった実践的な感想が寄せられた。同時に、「異なる視点から考えることは難しかったが、多角的な視野で場面を深く掘り下げられた」「反対派と言っても、人によって懸念のポイントが異なると気づいた」など、多様な観点への気づきを得たという声も多く聞かれた。
参加された組合役員の多くは、日頃からジェンダー平等やD&Iを推進する立場にある方々である。だからこそ、あえてロールプレイを通じて「慎重な意見を持つ人が何を感じているのか」を擬似体験し、そうした人々に対して「自分の言葉でどのように思いを伝えるか」を改めて深く考える契機にしていただけた、と私たちチームも確かな手応えを感じている。
なお、このロールプレイを行うにあたっては、参加者が互いに嫌な気持ちにならないよう、チームで議論を重ね、以下の3つの「グランドルール」を設けた。
• あくまで与えられた役割を演じること。実際の見た目などから演者の属性を決めつけない。
• 意見を述べる際、偏見や差別的な発言になっていないか注意し、もしそのような空気を感じたら事務局メンバーを呼ぶ。
• 嫌だなと感じることがあれば、無理のない形で共有する(事後に伝える形でも可)。この配慮についても、「自組織の活動でもルール設計を活かしたい」といった声とともに、現場の活動にすぐ活かせるノウハウとして高い評価をいただいた。
現場へ赴く「出張セミナー」で見えてきた課題と格差
他組織との情報交換を兼ねた全体ワークショップに加え、2024年後半からは、私たちチームが直接現場へ赴く、労働組合向けの「出張セミナー」も実施している。
現在、出張セミナーでは、基本的な概念を学習する「学び編」として「A. ジェンダーとは」「B.セクシュアリティとは」の2プログラム、および「活用編」として「C. 自分たちができることは何かを考える」の計3プログラムを用意している。「活用編」は、無自覚な偏見や差別などを理解した上で、実際に自組織内でD&Iを推進するための具体的なアクションを考える内容である。「学び編」はミニワークを含む90分、「活用編」はグループワークを含む120分で構成されており、各組織の現状やニーズに合わせて自由に選択してもらっている。実績としては、2024年に5組織、2025年には 3組織で実施した。
2025年の受講者からは、「自分の思い込みに気がついた」「知っているつもりになっていた“ジェンダー”について認識を改めた」「“個人の問題”ではなく“構造の問題”として捉え直すことができた」といった、意識の変革を示す感想が寄せられている。
今や“ジェンダー”や“セクシュアリティ”という言葉は多くの組合員が耳にしており、「ジェンダー平等やダイバーシティは推進すべきだ」という漠然とした総論の意識は共有されている。しかし、その知識や理解の深度には、個人間でかなりの格差があることも改めて浮き彫りになった。労使双方で積極的に取り組んでいる組織であっても、個人差だけでなく、事業所や地域、さらには世代間による認識のギャップが大きく存在しているのが実態である。
「ダイバーシティ疲れ」を乗り越え、ともに次なるアクションへ
このプロジェクトが始まってからの数年の間にも、社会的には「ジェンダー平等推進への反発」や「ダイバーシティ疲れ」といった言葉が散見されるようになってきた。こうした現象は、セミナー等の現場で私たちが感じた「認識の差異」や「不完全な納得感」を置き去りにしたまま、形だけの推進(アリバイ作り)を強めてきたことへの歪みが現れている側面もあるのではないだろうか。
私たち研究チームは、こうした現場の膠着状態や、組合役員が抱える「進め方の悩み」をともに打開していきたいと考えている。そのための次なるステップとして現在、自組織の「問題の所在」や「組合員の意識ギャップ」を客観的に可視化し、具体的な打ち手を発見できるような【独自の診断指標(アセスメントツール)】の開発を進めている。
総論賛成の先にある「現場の壁」に突き当たったときこそ、労働組合の出番であり、私たち研究所のチームの専門性を発揮するときである。この指標を活用し、それぞれの組織に合わせた「腹落ち感のある次の一歩」をともにデザインしていくことが求められている。誰もが息のしやすい職場、そして社会の実現に向けて、新しく実効性のあるアクションを起こしていく。また、そんな思いも込めて、このたびチームの名称を「ダイバーシティ・アクト研究チーム」と改めることとした。合言葉は、#WeActDiversity !。皆さんとともに歩みを進めていきたい。
| (公社)国際経済労働研究所ダイバーシティ・アクト研究チーム 鈴木 文子(研究員) 向井 有理子(研究員) 藤原 加代子(オルグ) |
本稿でもご紹介している、弊所主催の「D&I出張セミナー」の詳細はこちらからご確認いただけます。ご関心をお持ちの方はぜひお問い合わせください。