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2年目のコロナ禍春闘をふりかえる
高木 郁朗(日本女子大学 名誉教授)
本誌では、「春闘の成果と今後の課題」を毎年定例的に特集している。特集は本号および次号(9月号)の2号で構成しており、本号はその前編である。
2021春闘における連合の方針では、冒頭で「意義と目的」が示され、1.日本の抱える構造課題とコロナ禍によって明らかとなった社会の脆弱さを克服し、将来世代に希望がつながる持続可能な社会を実現すること、2.感染症対策と「経済の自律的成長」を両立していくためには、雇用の確保を大前提に、労働条件の改善による消費の喚起・拡大が不可欠であること、3.誰もが安心・安全に働くことのできる環境整備と分配構造の転換につながり得る賃上げに取り組み、「感染症対策と経済の自律的成長」の両立と「社会の持続性」の実現をめざそう!の3点が掲げられている(詳細は本誌2月号の連合・相原事務局長のインタビューを参照いただきたい)。
具体的な項目を確認すると、月例賃金は、「定期昇給相当(賃金カーブ維持相当)分(2%)の確保を大前提に、産業の『底支え』『格差是正』に寄与する『賃金水準追求』の取り組みを強化しつつ、それぞれの産業における最大限の『底上げ』に取り組むことで、2%程度の賃上げを実現し、感染症対策と経済の自律的成長の両立をめざす。」としている。このほか、「『すべての労働者の立場にたった働き方』の見直し」を掲げ、長時間労働の是正、すべての労働者の雇用安定に向けた取り組み、職場における均等待遇の取り組みなどが挙げられている。連合 総合政策推進局長 冨田珠代氏には、「2021春季生活闘争まとめ」を踏まえ、闘争の評価と課題について、次号で寄稿いただく。
各産別組織においても、コロナ禍の厳しい状況にあっても、これまでの賃上げの流れを止めることなく、各組織で力強い闘争が展開された。有期雇用者や非正規労働者の労働条件の改善の前進、総合的な労働条件の改善など、今年も注目される成果がみられた。賃金以外の観点では、テレワークに関する環境・ルールの整備や、高齢者雇用関連(定年延長等)の議論が進んだことなどが、今年の春闘の特徴と言えるだろう。産別組織へのインタビューは、編集の都合上、次号での掲載を予定している。今年も、UAゼンセン、電機連合、JAM、基幹労連、生保労連、情報労連、フード連合、サービス連合(略称、組織規模順)にご協力いただいた。なお、自動車総連については大会後の取材を予定している。インタビューでは、コロナ禍だからこそ春闘に取り組む意義や、労働運動や組合活動の重要性についても聞いているので、あわせてぜひお読みいただきたい。
本誌では、日本女子大学名誉教授 高木郁朗氏による論文「2年目のコロナ禍春闘をふりかえる」を掲載する。本稿によれば、労使政で賃上げとそれによる消費需要の増加なしには経済成長がありえないという見解が一致していたとする。さらに、この点の検討のため、昨年の春闘結果を前提として、家計調査によって家計の変化を確認している。
本特集にあたって、ご協力いただいた皆様に、感謝申し上げます。
本誌では、特別寄稿として、楊 慧敏氏(同志社大学大学院社会福祉学専攻 博士後期課程)による論文「中国の介護保険パイロット事業の課題」を掲載している。前号の特集「コロナ禍における介護労働」とあわせてお読みいただきたい。