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巻頭言 つなぐ「襷」に込めた思い

(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明

穏やかな新年を迎えた元旦の午後4時10分頃、帰省していた妻の名古屋市の12階にある実家は大きく揺れ動いた。名古屋では震度4。石川県能登地方を中心とするマグニチュード7.6、同県志賀町で震度7を観測した。被災された皆さまに、心よりお見舞いを申し上げるとともに、一日も早く平穏な生活に復することをお祈りしたい。


この能登半島地震の被災者の方々への心情なども配慮して開催か、延期か、中止かなどが検討されていた箱根駅伝は、予定通り開催された。


この箱根駅伝は、今や正月の恒例行事のひとつといっても過言ではない。関東学生陸上競技連盟が主催する駅伝の競技会で、最初に開催されたのは1920年、第二次世界大戦時に一時中断されたが、今年で100回となる歴史を持つ大会である。


東京都大手町と神奈川県の箱根町にある芦ノ湖を結ぶ往復217.1kmを、1月2日と3日の2日間で走破する。往路、復路いずれも5区間にわかれていて、約20kmの1区間を10人でつなぎ、出場チームは前年の上位10校と予選会を突破した10校、それに加え選抜メンバーの関東学生連合チームによる21校で争われる。


今年は100回目の記念大会であり、関東以外からも11校が予選会に参加し、通常より3校増枠した23校で開催された。


今年の見どころは、今季の出雲駅伝(2023年10月9日)、全日本大学駅伝(2023年11月5日)を制した駒澤大学が、史上初となる2年連続3冠を達成するのかどうかに注目が集まっていた。結果は、青山学院大学が大会新記録の走り、復路にいたっては安定した独走態勢で、2年ぶり7回目の総合優勝となった。ちなみに、青山学院大学の出雲駅伝は5位、全日本大学駅伝は2位の成績である。


私もこの数十年、箱根駅伝の魅力に取りつかれた一人だ。この2日間はテレビ中継にくぎ付けとなる。その魅力はたくさんあるが、まずチームワークが挙げられる。各ランナーがひとつの区間を担当し、自分の力を出し切り次のランナーにつなぎ、チームとしての目標に向かって進んでいく。不調のランナーを他のランナーがカバーしあい、連帯と協働というチーム全体の力が試されることになる。勝負を分けるのは個人ではなく、10人でつなぐチームの力だ。その象徴が思いを込めた「襷」である。襷をつなぐ様子は、観戦者と選手が一体となる独特の雰囲気を生み出す。


襷には次の選手につなぐという重い責任も託されている。順位を上げることも重要だが、途中棄権となれば襷は途絶える。また、タイムリミットもある。襷をつなぐ各中継所は、トップランナー通過から一定時間が経過すると、次のランナーが「繰り上げスタート」させられ襷が途絶えることも少なくない。襷をわたすことができず、泣き崩れる姿を目にし、応援している私たちもいたたまれない気持ちになる。


順位の入れ替わりも少なくない。抜きつ抜かれつのデッドヒートに、観客も手に汗握ることになる。下位のチームが一気に多くのチームを追い抜き、上位に躍り出るドラマチックな展開もある。


箱根駅伝は変化に富んだコースが、レースの駆け引きのおもしろさを際立たせている。特に往路最後の5区はクライマックスだ。小田原から芦ノ湖まで高低差864mを一気に駆け上がる。とても過酷なコースであると同時に、上り坂に強い「山の神」などと伝説を残す選手もいて、きつい勾配を信じられないような速度で上り、何人もの先方の選手を抜き去り順位を上げていく姿は、まさに圧巻である。


優勝争いもさることながら、翌年に出場するための「シード権」獲得の争いも熾烈だ。10位以内に入れば翌年の出場が確定するが、11位以下は厳しい予選会を突破しなければならない。10位と11位のたったひとつの順位の差が、雲泥の差として現れるのだ。


そんな筋書きのない多くのドラマに魅了され、学生たちの一生懸命な姿に心を打たれ、共感し胸を熱くする。そんな年の初めの過ごし方が、私には尊い時間となっている。

2024.2

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