機関誌Int

’

lecowk

巻頭言 問われている民主主義の質

(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明

 自民党の歴史的圧勝という結果に終わった去る2 月の衆院選から4 カ月が経った。自民党単独で衆院の3 分の2 超の議席を占め、与党が過半数割れしている参院、いわゆる「ねじれ国会」で法案が否決されても、衆院の3 分の2 以上の賛成で再可決でき、自民党単独で可能だ。

 この選挙結果の背景には、これまでもその傾向は顕在化しつつあったが、明らかに質の異なる環境があった。とりわけSNS の影響は決定的であり、国政選挙における「時代の変わり目」を象徴する出来事だといってよい。

 高市政権はこの新たな情報環境を巧みに活用し、短いフレーズや印象的なメッセージを拡散させることで支持を広げた。いわば「推し」の対象として政治家を消費する現象が広がり、選挙のあり方そのものが大きく変容している。

 しかし、この勝利が何を意味するのかについては、冷静な検証が必要だ。高市首相自身は選挙後、「白紙委任状を得たつもりは全くない」と語った。にもかかわらず、その後の予算審議では、限られた審議時間の中で、数の力を背景に年度内成立を強く押し切ろうとする姿勢が目立った。

 国会審議は民主主義の根幹であり、とりわけ過去最大規模の予算であればなおさら、丁寧な検証と議論が不可欠であるはずだ。それが十分に尽くされたとは言い難い現実は、「数の力」に依存する政治の危うさを示している。

 この流れが続けば、今後は「国論を二分する政策」までもが強引に進められる可能性がある。非核三原則の見直しを含めた安全保障政策の抜本的見直しやスパイ防止法、国旗損壊罪、さらには憲法改正など、いずれも国の根幹に関わる重大なテーマだ。

 こうした政策は、本来、幅広い国民的議論と理解を前提に進められるべきものであり、多数を握ったからといって一気に結論を出してよいものではない。実際、衆院選における得票率は過半に届いておらず、必ずしも国民の圧倒的支持を得たとは言えない。この現実を踏まえれば、「数」による強行は、民意の一部だけを切り取る行為になりかねない。

 そもそも政治の役割は、国民を分断することではない。対立する意見に耳を傾け、丁寧な説明と説得を重ねながら、可能な限り広い合意を形成していくことにある。国論を二分する政策を拙速に進めれば、社会の亀裂は深まり、結果として政治への信頼そのものが損なわれる。

 いま国民が求めているのは、イデオロギー的な対立を伴う政策ではなく、日々の暮らしの改善である。物価上昇の中で生活に余裕を失いつつある層への支援、分配のあり方の見直し、将来への不安を和らげる社会保障の構築といった課題こそが、優先されるべきテーマである。経済成長の指標だけでは測れない「生活の実感」をどう高めるかが、いまの政治に問われている。

 そのためにも、私たちは改めて民主主義の原点に立ち返る必要がある。多数決は重要な原則であるが、それは熟議を経たうえでの最終的な決定手段に過ぎない。議論を省略し、結果だけを急ぐ政治は、民主主義の空洞化を招く。国会は本来、多様な民意をすり合わせる場であり、その機能が弱まれば、政治の正統性は揺らぐ。

 同時に、野党の責任もまた重い。現状では、政権を十分に監視し得る体制が整っているとはいい難く、対案を示す力も不足している。内閣不信任案を単独で提出する野党が存在しない異常な状態だ。

 巨大与党に対抗するには、大きな塊をつくり単なる批判にとどまらず、与党とは異なる社会像を語り、現実的で説得力のある政策を提示し、国民の信頼を回復する必要がある。緊張感ある政治体制は、野党の力量によっても支えられるものだからだ。

 自民一強、あるいは「高市一強」ともいえる現在の政治状況は、安定と引き換えに緊張を失う危険をはらんでいる。だからこそ、権力の行使には一層の自制が求められ、同時にそれを監視し政権の選択肢となる野党勢力の再建が急務となる。民主主義の質が問われる今、与野党双方に課せられた責任は、かつてなく重い。

2026.5

一覧へ戻る