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【2016年10月号】どこへ行く巨大新興国家・中国―整合性欠く理念と政策の行方

巨大な国土と人口を有する社会主義の実験によって、世 界の工場として新興国のモデルとされてきた中華人民共和 国は、このところ市場経済の導入とともに計画経済の混迷と もいうべき状況に突入し、国家理念に整合する政策の展開 さえ危うくなり、失速状況を露呈してきた。それは2015年初 頭より顕著となってきたが、まず1-3月期の実質総生産の 成長率が0.3ポイント低下し、6年ぶりの低水準になり、住宅 販売の不振が景気減退を招き、習近平政府が「新常態― ニュー・ノーマル」と規定しようとする状況とは異なる状況を 招いたのみではなく、それから1年を経ても状況は改善され るどころか2015年の成長率は7ポイントを割ることとなった。こ の背景には、鋼材・セメント・自動車などの過剰設備による 過剰生産をはじめ不動産・住宅市場など消費の落ち込みが あり、それが影響して民間企業業績の落ち込みと株式の下 落など景気の悪化が拡大しつつあったことがあげられる。特 に株式市場の低迷が追い打ちをかけていたし、国際的な不 況の到来もあった。ただ、中国独自の問題としては、国有企 業先行による過剰設備によって計画経済がうまく機能せ ず、国家の経済介入を招き、計画経済がうまく機能しないと いう特有の体質があるといえる。さらに一人っ子政策による 労働不足や高齢社会による経済のひずみも問題となる。

このような経済の構造改革が絶えず求められるが、それが 必ずしも順調とは限らない面があった。他方、南シナ海での 領土拡張は、国家事業と軍としての行動の両面の問題点 であるが、中国建国以来の国家理念としての平和主義と領 土拡張主義の抑制という理念とはやや整合しない面がある にもかかわらず周辺諸国との対立を招き、国際仲裁裁判がそ の抑制に働いたにも関わらずそれに敵対し、東シナ海では尖 閣諸島問題でわが国領土侵犯の挙に出るなど従来の態度 と著しく変化が突然変異のごとく起きてきたことは注目される。  (会長・板東 慧)


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