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10:岐路に立つカナダ労働運動 前編<2/2>

2. カナダの主要労働組合

カナダの主要労組のほとんどは、CLCに属している。CLCは、カナダ最大のナショナル・センターであり、組織労働の約7割、330万人(2013年現在)を傘下に収めている。CLCは設立当初からアメリカ労組からの自立(カナダ化)を目指していたが、その成功を象徴するものとして、チームスターズ・カナダ(Teamsters Canada)のCLC再加盟がある。チームスターズ・カナダはアメリカ本部との一体感が強く、CLCのカナダ化に反発し、一度は除名された。しかし1970-80年代に主だったアメリカ労組カナダ支部は自立化を果たしたことを背景に、チームスターズ・カナダも1992年にはCLCに再加盟した。

1970年の労働組合組織率はアメリカ30%、カナダ31%とほとんど差はないが、1989年の数字ではアメリカは16%へと半減したのに対して、カナダは4ポイント上げて35%となり、明暗を分けている。アメリカはその後も一貫して組織率が低下し、2008年には11.9%に落ち込んでいる。カナダも9.5%と多少落ち込んでいるものの、なおアメリカの3倍近い組織率を維持している
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3817.html、2013年8月1日閲覧)。

カナダの組合組織率を支えたのは、公共部門や公益産業における組織化の成功である。現在公共部門では7割以上の組織率を誇っているのに対して、民間では2割程度に止まっている。カナダで最大の労働組合はCUPEである。直訳すればカナダ公務員組合となるが、地方公務員を中心に病院関係者(なかでも看護師)、教員、その他社会サービスや公益関連産業労働者等を含む。CUPEはCLCの勧告に従って、1963年に二つの公務員関係組合が統合して誕生したが、当初傘下組合員は8万人弱にすぎなかった。それが1970年代中葉には20万人を大きく超えるカナダ最大の労組となり、2013年現在では60万人を超えている(http://cupe.ca/about、2013年8月1日閲覧)。

1960年代に病院関係労働者、とりわけ看護師の組織化が各州で進んだことがCUPE拡大の原動力となった。看護師のような準専門職は、医師のような専門職に対して賃金が著しく低く、それに対する「埋め合わせ賃金」を求める声が当時強まった。彼らの多くは州法によってストライキ権を奪われていたが、実力行動を辞さない強硬な態度で団体交渉に臨み、州政府による職場復帰命令に抗しながら、闘争のなかで組織を強化していった。同様のことが、小中学校教師の間でも起こった。これらの職種では女性が多く、組織化は女性の組織率を高めることになった。女性労働者の間での組織率は1967年から76年の間に17%から27%へと上昇した(男性の組織率は40%)。1970年代中葉にはすでにCUPEの組合員の4割は女性であり、現在では半数を超えている。パートタイム労働者の組織化においてもCUPEは成果をあげており、全組合員の4分の1以上がパートタイム労働者である。

近年の性別組織率の動向をみると、女性の組織率のほうが男性よりも高い。2004年に両者の組織率はほぼ並び、その後2年ぐらいは同程度で推移したが、2007年になると女性の組織率が31.8%に達し、男性の組織率31.2%を上回った。女性の組織率は1970年代中葉から40年かけて5ポイント程度上昇しているが、1976年までの10年間で10ポイント伸びたことを考えれば、実はそれほど大きな成果ではなく、むしろ男性の組織率が運輸・卸売・製造業、情報・文化・レジャー産業、天然資源産業などで下がったことが男女組織率逆転の大きな理由である。

CUPEは多様な業種に携わる組合を抱え、その傘下組合員は「揺りかごから墓場」までのサービスを提供するといわれている。出産、保育、教育、学校事務、大学の教育補助、コミュニティ・センター、水道やガス・サービス、徴税から墓堀まで、市民サービスの全てにCUPEの組合員が従事している。CUPE傘下の地方組合は2000を超え、その6割は100人以下の小さな組織である。このように傘下組合員の職域地域が多様なため、CUPE内には今日4000を超える団体協約が存在するといわれる。このように既に組織が大きく、職種が多様化していることもあって、CUPEは組
織化対象を公共部門、公益産業に限定している。今以上の多様化は、組織の結束力にとってマイナスになるという現実的判断が働いているものと思われる。

民間で最大規模のカナダ自動車労組CAW(Canadian Auto Workers Union)は、経営側に譲歩を重ねるアメリカ自動車労組(UAW)に反発し、1985年カナダ支部が独立して、生まれた。当初12万人であった組合員数は、2004年には26万5000人にまで増えた。CAWの組織拡大は、自動車関連分野を超えてなされてきた。航空会社労組と小売労働者労組を吸収合併し、病院や保健部門での組織化も行った結果、女性や民族的少数派、非正規雇用の組合員も増え、2004年現在で、自動車関連労働者は全体の5割強にすぎない。鉄鋼労働組合やチームスターズなども、UAWと同じような組織拡大戦略を採っている。

CLCの従来の方針では、労働組合は特定産業分野の労働者を代表するものと考えられていたが(同じ条件や環境下にある労働者のほうが団結しやすく、またそのような労働者の組織のほうが使用者との団体交渉においても有利と考えられた)、雇用人口が減少している産業労組の場合、産業分野横断的な組織化によって組合員の減少を阻止する動きが強まるのは止むを得ない。しかし組合員の利害が多様化するので、組合員の団結や連帯を維持する戦略が重要になる(Bickerton and Stinson 2008: 171; cf.Yates 1993)。産業横断的な戦略を採っていないとはいえ、そもそも組合員の職場環境が多様であるCUPEの場合も同じ問題を抱えている。

次回はカナダ労働運動が、グローバル化、自由貿易圏成立のなかで、どのようにして組合員の団結力を維持し、社会的連帯を構築しようとしてきたかを、公共部門と民間部門の最大労組、UPEとCAWを取り上げて、考察する。
 

かった。それが1970年代中葉には20万人を大きく超
えるカナダ最大の労組となり、2013年現在では60万人
を超えている(http://cupe.ca/about、2013年8月1日
閲覧)。
 1960年代に病院関係労働者、とりわけ看護師の
組織化が各州で進んだことがCUPE拡大の原動力
となった。看護師のような準専門職は、医師のような
専門職に対して賃金が著しく低く、それに対する「埋
め合わせ賃金」を求める声が当時強まった。彼らの多
くは州法によってストライキ権を奪われていたが、実力
行動を辞さない強硬な態度で団体交渉に臨み、州
政府による職場復帰命令に抗しながら、闘争のなか
で組織を強化していった。同様のことが、小中学校教
師の間でも起こった。これらの職種では女性が多く、
組織化は女性の組織率を高めることになった。女性
労働者の間での組織率は1967年から76年の間に
17%から27%へと上昇した(男性の組織率は40%)。
1970年代中葉にはすでにCUPEの組合員の4割は
女性であり、現在では半数を超えている。パートタイム
労働者の組織化においてもCUPEは成果をあげてお
り、全組合員の4分の1以上がパートタイム労働者で
ある。
 近年の性別組織率の動向をみると、女性の組織
率のほうが男性よりも高い。2004年に両者の組織率
はほぼ並び、その後2年ぐらいは同程度で推移した
が、2007年になると女性の組織率が31.8%に達し、
男性の組織率31.2%を上回った。女性の組織率は
1970年代中葉から40年かけて5ポイント程度上昇し
ているが、1976年までの10年間で10ポイント伸びたこ
とを考えれば、実はそれほど大きな成果ではなく、むし
ろ男性の組織率が運輸・卸売・製造業、情報・文化・
レジャー産業、天然資源産業などで下がったことが男
女組織率逆転の大きな理由である。
 CUPEは多様な業種に携わる組合を抱え、その傘
下組合員は「揺りかごから墓場」までのサービスを提
供するといわれている。出産、保育、教育、学校事
務、大学の教育補助、コミュニティ・センター、水道やガ
ス・サービス、徴税から墓堀まで、市民サービスの全て
にCUPEの組合員が従事している。CUPE傘下の
地方組合は2000を超え、その6割は100人以下の小
さな組織である。このように傘下組合員の職域地域
が多様なため、CUPE内には今日4000を超える団体
協約が存在するといわれる。このように既に組織が大
きく、職種が多様化していることもあって、CUPEは組
織化対象を公共部門、公益産業に限定している。今
以上の多様化は、組織の結束力にとってマイナスに
なるという現実的判断が働いているものと思われる。
 民間で最大規模のカナダ自動車労組CAW
(Canadian Auto Workers Union)は、経営側に
譲歩を重ねるアメリカ自動車労組(UAW)に反発し、
1985年カナダ支部が独立して、生まれた。当初12万
人であった組合員数は、2004年には26万5000人に
まで増えた。CAWの組織拡大は、自動車関連分野
を超えてなされてきた。航空会社労組と小売労働者
労組を吸収合併し、病院や保健部門での組織化も
行った結果、女性や民族的少数派、非正規雇用の
組合員も増え、2004年現在で、自動車関連労働者
は全体の5割強にすぎない。鉄鋼労働組合やチーム
スターズなども、CAWと同じような組織拡大戦略を
採っている。
 CLCの従来の方針では、労働組合は特定産業分
野の労働者を代表するものと考えられていたが(同じ
条件や環境下にある労働者のほうが団結しやすく、ま
たそのような労働者の組織のほうが使用者との団体
交渉においても有利と考えられた)、雇用人口が減少
している産業労組の場合、産業分野横断的な組織
化によって組合員の減少を阻止する動きが強まるの
は止むを得ない。しかし組合員の利害が多様化する
ので、組合員の団結や連帯を維持する戦略が重要
になる(Bickerton and Stinson 2008: 171; cf.
Yates 1993)。産業横断的な戦略を採っていないと
はいえ、そもそも組合員の職場環境が多様である
CUPEの場合も同じ問題を抱えている。
 次回はカナダ労働運動が、グローバル化、自由貿
易圏成立のなかで、どのようにして組合員の団結力
を維持し、社会的連帯を構築しようとしてきたかを、公
共部門と民間部門の最大労組、CUPEとCAWを取
り上げて、考察する。
(2014 
かった。それが1970年代中葉には20万人を大きく超
えるカナダ最大の労組となり、2013年現在では60万人
を超えている(http://cupe.ca/about、2013年8月1日
閲覧)。
 1960年代に病院関係労働者、とりわけ看護師の
組織化が各州で進んだことがCUPE拡大の原動力
となった。看護師のような準専門職は、医師のような
専門職に対して賃金が著しく低く、それに対する「埋
め合わせ賃金」を求める声が当時強まった。彼らの多
くは州法によってストライキ権を奪われていたが、実力
行動を辞さない強硬な態度で団体交渉に臨み、州
政府による職場復帰命令に抗しながら、闘争のなか
で組織を強化していった。同様のことが、小中学校教
師の間でも起こった。これらの職種では女性が多く、
組織化は女性の組織率を高めることになった。女性
労働者の間での組織率は1967年から76年の間に
17%から27%へと上昇した(男性の組織率は40%)。
1970年代中葉にはすでにCUPEの組合員の4割は
女性であり、現在では半数を超えている。パートタイム
労働者の組織化においてもCUPEは成果をあげてお
り、全組合員の4分の1以上がパートタイム労働者で
ある。
 近年の性別組織率の動向をみると、女性の組織
率のほうが男性よりも高い。2004年に両者の組織率
はほぼ並び、その後2年ぐらいは同程度で推移した
が、2007年になると女性の組織率が31.8%に達し、
男性の組織率31.2%を上回った。女性の組織率は
1970年代中葉から40年かけて5ポイント程度上昇し
ているが、1976年までの10年間で10ポイント伸びたこ
とを考えれば、実はそれほど大きな成果ではなく、むし
ろ男性の組織率が運輸・卸売・製造業、情報・文化・
レジャー産業、天然資源産業などで下がったことが男
女組織率逆転の大きな理由である。
 CUPEは多様な業種に携わる組合を抱え、その傘
下組合員は「揺りかごから墓場」までのサービスを提
供するといわれている。出産、保育、教育、学校事
務、大学の教育補助、コミュニティ・センター、水道やガ
ス・サービス、徴税から墓堀まで、市民サービスの全て
にCUPEの組合員が従事している。CUPE傘下の
地方組合は2000を超え、その6割は100人以下の小
さな組織である。このように傘下組合員の職域地域
が多様なため、CUPE内には今日4000を超える団体
協約が存在するといわれる。このように既に組織が大
きく、職種が多様化していることもあって、CUPEは組
織化対象を公共部門、公益産業に限定している。今
以上の多様化は、組織の結束力にとってマイナスに
なるという現実的判断が働いているものと思われる。
 民間で最大規模のカナダ自動車労組CAW
(Canadian Auto Workers Union)は、経営側に
譲歩を重ねるアメリカ自動車労組(UAW)に反発し、
1985年カナダ支部が独立して、生まれた。当初12万
人であった組合員数は、2004年には26万5000人に
まで増えた。CAWの組織拡大は、自動車関連分野
を超えてなされてきた。航空会社労組と小売労働者
労組を吸収合併し、病院や保健部門での組織化も
行った結果、女性や民族的少数派、非正規雇用の
組合員も増え、2004年現在で、自動車関連労働者
は全体の5割強にすぎない。鉄鋼労働組合やチーム
スターズなども、CAWと同じような組織拡大戦略を
採っている。
 CLCの従来の方針では、労働組合は特定産業分
野の労働者を代表するものと考えられていたが(同じ
条件や環境下にある労働者のほうが団結しやすく、ま
たそのような労働者の組織のほうが使用者との団体
交渉においても有利と考えられた)、雇用人口が減少
している産業労組の場合、産業分野横断的な組織
化によって組合員の減少を阻止する動きが強まるの
は止むを得ない。しかし組合員の利害が多様化する
ので、組合員の団結や連帯を維持する戦略が重要
になる(Bickerton and Stinson 2008: 171; cf.
Yates 1993)。産業横断的な戦略を採っていないと
はいえ、そもそも組合員の職場環境が多様である
CUPEの場合も同じ問題を抱えている。
 次回はカナダ労働運動が、グローバル化、自由貿
易圏成立のなかで、どのようにして組合員の団結力
を維持し、社会的連帯を構築しようとしてきたかを、公
共部門と民間部門の最大労組、CUPEとCAWを取
り上げて、考察する。
(2014  


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